あの後、我に返った俺はなまえを置いてダッシュで逃げた。何してんだ俺は…。
「なまえおはよー!」
なまえという名前に異常に反応してしまい身体が跳ねた。落ち着け俺。
「どうしたのそれ怪我?」
怪我…?慌てて振り返るとなまえは右手に包帯を巻いていた。
「うん、転んじゃって」
なまえは話しながら教室に入ってしまった。怪我してたなんて全く気がつかなかった。
「クソッ」
自分に苛立ち舌打ちをした。
「こんなとこ呼び出して何の用?お腹空いたんだけど」
「俺も空いた。購買も行きそびれた」
「それはそれは。私のお弁当分けてあげるよ」
「弁当は貰うが今はその話じゃねぇ」
「じゃあなに?」
「悪かったな」
なまえは一瞬目を丸くするとじと目で睨んできた。
「謝らないでよ。虚しくなるから」
「違う」
「?」
「怪我してること気づかねぇで帰ったことだ」
「あ、そっち?」
なまえは包帯を巻いている手首を撫でた。
「いいよそんなの。私も家に着くまで気がつかなかったし」
それはさすがに鈍すぎだろ。
「嫌じゃなかったのかよ」
「何が?」
「その…あれだよ、昨日いきなり…」
「キスしたこと?」
率直すぎる言葉にぶっと吹き出すとなまえはニヤリと笑った。なんだその顔。
「江文って目瞑るとあんなかわいいんだね」
「てめぇ…見てやがったのか」
「びっくりしすぎて閉じる暇なかったの」
チッ!こいつからかってやがるな。
「おい」
「んー?」
「なんかあの時はよく分からなかったからもう一回ちゃんとさせろ」
「何それもっとまともに誘えないの?」
「うるせぇ」
腕を掴んで引き寄せるとなまえは身体を固くさせた。
「ちょ、ちょっとここ学校だよ」
「なんだぁ?緊張してんのか?口だけだな」
さっきのお返しにニヤリと笑い返すとなまえは顔を赤くさせ一歩下がった。
「あ、あのさ!」
「あ?」
「江文がいるからだよ」
「?」
「高校…ここにしたの…」
「お前そんなことで」
「そんなことじゃない。江文がいないと困る」
「そうかよ。バカだな」
「ほんとバカだね」
「俺もなまえがいないと困る」
「江文…」
なまえは嬉しそうに頬を染めて目を細めて笑った。だからその笑顔は反則だ。
「話は終わりだ。今度は目閉じろよ」
「うん…」
なまえは素直に目を閉じた。かわいいのはどっちだよ。
肩を抱いて唇にそっと触れた。
柄にもなくめちゃくちゃ緊張する。
やっぱりなまえには敵わないと思った。