廊下を歩いていると背中に思いっきり何かがぶつかり激痛が走った。
「いってぇ!」
「すみません…なんだ江文か」
「てめぇ…。て、なんだその荷物」
「さっきの授業で使ったんだけど片付けろって言われて。日直だから」
「もう一人はどうした」
「知らない。どっか行った」
相変わらず淡泊ななまえにため息をついて頭を掻いた。
「仕方ねぇから手伝ってやる」
「ありがとう。どうしたの今日は親切だね」
「いつもだろうが。ふらふらしてまた誰かにぶつかったら迷惑なんだよ」
「迷惑とか江文が言うの?」
「うるせー!」
頭をはたくと荷物を奪った。重っ!しかもこんな大量によく持てたな。
「江文って何気に女子には優しいよね」
「お前自分のこと女子だと思ってたのか」
「最低だよね」
「冗談だっつーの」
「あ、あと後輩にも」
「あ?誰のこと言ってんだ」
「ほら、あの小柄なかわいい子」
「まさか祇園か」
「そうそうそんな名前」
「あいつは勝手に付きまとってくるだけだ」
「慕われてるんだ」
こいつ茶化してやがんな。まあいい。
「前から聞きたかったんだけどよ」
「なに」
「お前、頭いいのになんでこの学校にしたんだ。もっと上行けただろ」
「………」
なまえは黙ったまま俺をじっと見て視線を逸らせた。
「バカ…」
「あ?」
「言わない」
なんだそれ。
資料室に着くと元の場所なんて知らねえから適当に片付けを始めた。
「あーだりぃ。もうこんなとこで…」
「ぎゃっ!」
いいだろうと立ち上がろうとしたら背後で色気のない短い悲鳴のあと派手な物音がした。振り返るとなまえが地べたに転がっていた。全身の血の気が引いた。
「おい!」
背中を支えて上半身を起こすとなまえは顔を歪めた。
「乗ってた台が壊れてたみたいで…」
指さす方を見ると確かに台座が無残に壊れている。あんな物を置きっぱなしにしたやつ絶対に許さん。
「いたた…腰打った」
「大丈夫かよ…」
頭打ってないだろうな。
後頭部を撫でると特に怪我は無さそうなのでとりあえず安堵した。
「うん…大丈夫そう」
顔を上げたなまえと思ったより距離が近くて心臓が変な風に跳ねた。こんなに近くになまえがいるのはいつ以来だ。
ガキの頃は恥ずかし気もなく何でもできたし何でも素直に言えた。あの頃に戻りたいとは思わない。今の方が断然楽しいから好きだ。
けどやっぱ月日が経つとなまえとは微妙な距離ができてしまった気がする。それが無性に俺をもやもやさせた。
顔を合わすと悪態ばっかついてるけど本気じゃない。俺はなまえが…。
さっきから黙っている俺を不思議に思ったのかなまえは首を傾げている。
「江文…っ」
気がついたらなまえの後頭部に手を添えたまま顔を近づけ口を塞いでいた。