「それっておいしいの?」
「えっ!」
兄貴にパシられて煙草を買いに来たら背後から突然声を掛けられ身体がビクリと跳ねた。
前にもこんなことあったな。振り返るとえぶっちとは似ても似つかない人物がいた。
「なんだみょうじかびっくりした。いや、これは…」
「あ、別に止めるつもりはないので。単なる好奇心で聞いてみただけ」
みょうじは制服姿で片手にスーパーの袋という不釣り合いな格好で俺の手元を見ている。
「これは兄貴にパシられただけだから。あとあんまオススメはしない」
「ふーん。吸ったことあるんだ」
「あ!えーと…」
「大丈夫。誰にも言わない」
言わないと言いつつものすごく悪そうな顔をしている。
「なーにしてんだお前ら」
「あ、えぶっち」
本当にえぶっちが現れた。まさか今度こそ本当にDVDを借りに来たんじゃないだろうな。しかもまた制服だ。
「お前ら仲良いな。できてんのか」
「はぁ!?」
「バカじゃないの」
驚いて大声を上げた俺に対してみょうじはじと目でえぶっちを睨んだ。
「そ、そういやみょうじはなんでここにいんの?」
「夕飯の買い物」
「お前の家も親遅いもんな」
「へー」
みんないろいろあるんだな。
「さてと、帰るか」
「江文は結局何しに来たの」
「別に」
みょうじの質問にふいと視線を逸らしたえぶっちを見てピンと来てしまった。
「えぶっちまさか後つけてきたのか…」
「それ以上しゃべったら殺す」
やっぱり…過保護すぎんだろ。いや、むしろ狂気を感じるんだが。
「伊勢くん」
ドン引きしているといつの間にかみょうじが目の前に立っていた。
「これあげる」
「?」
手を差し出され思わず受け取ると手の平にチョコが乗せられた。
「スーパー行くとつい買っちゃうんだよね。口寂しくなったらそういうの食べるといいよ」
「ありがとう…て、吸わないからな!」
「じゃあまた明日ね」
聞いてないなあれは。みょうじは小走りでえぶっちの元に向かった。
「俺にもなんかよこせ」
「そんな態度の人にはありません」
えぶっちはぎゃいぎゃい悪態をつきながらもさり気なく荷物を持ってあげていた。
相変わらずいいやつだ。