練習が終わると一緒に帰るのが恒例となっていた。帰り支度が終わって校門で待っていると濯也くんが小走りでやってきた。
「遅れて悪い」
「ううん大丈夫だよ。帰ろっか」
歩き出そうとすると濯也くんは立ち止まったままだった。
「どうしたの?」
「あ、いやその」
何か言いたげな濯也くんに首を傾げると手が伸びてきた。
「きょっ」
「きょっ?」
「今日はかわいいな」
「え…」
伸びてきた手はぽんと頭に置かれ遠慮がちに撫でられた。
「いや違うぞ!いつもかわいいと思っている!」
「あ、うん…」
私がえ…と言ったのはそんなこと言われたことがなかったからびっくりしただけなのだけど濯也くんはあたふたと訂正している。
「よ、よし帰ろう」
「うん…」
濯也くんは私の手を取ると歩き出した。やっぱり今日の濯也くんはどこかおかしい。手を繋いで帰るなんて今までなかった。
「八王子くん!」
「なにー?どうしたの」
「昨日からキャプテンの様子がおかしいの!何か知らない?」
「おかしいって?いつも通りだと思ったけど」
「昨日の帰りね、突然褒めてくれたり手を繋いできたりたい焼き奢ってくれたり家まで送ってくれたり…あ、最後のはいつも通りなんだけど」
「楽しそうだね」
「うん。楽しかった。でも何だかいつもと違ったから少し心配で」
「それ俺のせいかもー」
声に振り向くと雷太がのほほんと立っていた。
「どういう意味?」
「実はこの間セッキーになまえのこともっと褒めたりスキンシップしてあげないと嫌われちゃうよ〜て言ってみました」
「言ってみましたってお前なぁ」
「キャプテンは純粋な人なんだから茶化さないでよ」
「ごめんごめん。どんな反応するのか見てみたくってつい」
雷太はまったくしょうがない人だ。からかわれていたとはいえ私を喜ばせようとしてくれた昨日の濯也くんは何だか可愛らしかったので雷太を許すことにしよう。
思い出して思わず笑みがこぼれた。それにしてもどうして私はもっと素直にありがとうって言えなかったのだろう。微妙な反応をして不安にさせてしまったかもしれない。
練習が終わりいつも通り校門へ向かうとすでに濯也くんが待っていた。
「ごめんねお待たせ。行こっか」
「ああ」
頷いておきながら濯也くんはそこから動こうとしなかった。また何か言おうとしてくれているのか私を見つめている。その様子がおかしくて思わず笑ってしまった。
「な、なんだ」
「濯也くん雷太にからかわれたんだよ」
「からかわれた?」
「そう。全部聞いたよ。私に嫌われるよって言われたんでしょ。それ雷太にからかわれたんだよ」
「なっ!そうだったのか…」
からかわれていたことに気が付かなかったなんて本当に純粋な人だ。
「どんなことがあっても嫌いになったりなんて絶対にしない。だから無理しないで」
「無理なんて…いや正直していたかもしれないな」
「昨日もね本当は嬉しかったよ。ちょっとびっくりしちゃったけど。相変わらず濯也くんは優しくて素敵だなって思った」
「そ、そうか」
「うん。でも私は今のままでも十分幸せだから。濯也くんが隣にいてくれるだけで幸せ」
「ありがとう俺もだ」
頷くと濯也くんは私の手を取って強く握った。
「もう不慣れなことはしない。けどこれだけは続けたい。これからもこうやって一緒に帰ろう」
「うん!」
嬉しさで胸がいっぱいになりながら濯也くんの優しくて大きな手を握り返した。