ラグビー…ラグビー…赤山くんに声を掛けてもらってからそのことばかり考えてしまう。
スポーツとは無縁の生活をしていた私にとって運動部は未知の世界だ。全く興味がない訳ではない。けれどラグビー部というこれまたさらに未知の世界への勧誘だったので正直とても戸惑ってしまっていてまだ返事が出来ていない。
いつまでもあやふやにしておく訳にも行かない。どうしよう。最近は一日中そのことばかり考えてしまい今日も気がつけば放課後になっていた。
そうだ今日は欲しかった本の発売日だ。駅前の大きな本屋さんへ行こう。立ち上がり帰り支度をするともうあまり人が残っていない教室をあとにした。
グラウンドの横を通るといろんな部が活動する中ひときわ大きな声が聞こえてきた。ラグビー部だ。無意識に赤山くんを探していつのまにかずっと目で追いかけていた。
わっ痛そう。思いっきりぶつかって見ているこっちの身体が痛みだしそうだ。
でも赤山くんたちは全く怯まなくてむしろ楽しそうでキラキラして見えた。
ラグビー部は身体の大きな人が多いからどこか乱暴な人たちなのかなと勝手に決めつけていた。
けれど赤山くんは話してみると優しくていい人だとすぐに分かった。
誰よりも大きな声を出して真剣に取り組んでいる赤山くんは素敵でかっこよくて見ていて胸が高鳴った。赤山くんを見つめていると不意に目が合ってしまいドキッとした。
思わず逸らすと本屋さんに行こうとしていたことを思い出して慌ててその場をあとにした。
本屋さんに来るといつもつい長居をしてしまう。そろそろ帰ろうと新刊を手に取りレジに向かう途中いつもは通り過ぎるのにスポーツコーナーで立ち止まってしまった。
ラグビーの本ってあるのかな…。辺りを見渡しても野球やサッカーといったものが多くなかなか見当たらない。上段の棚に漸くラグビー教本を見つけて背伸びをした。
うっ高い。身長はそこまで低くないのにあと少しのところで届かない。
もう少し…。指がようやく触れたと思ったら後ろから伸びてきた手が軽々本を抜き取ってしまった。
前にもこんなこと…。あの時は戻すのは手伝ってくれた。確信なんてないのになんとなく背後の人物を頭に浮かべた。
ゆっくり振り返るとやっぱりそこには赤山くんがいた。ラグビー教本を渡されそれを受け取った。
「ラグビー部のマネージャーになってくれるか」
「はい」
素直に頷くと赤山くんは優しく笑ってくれた。