「赤山はいないの?」

「え、何がだ」

「好きな子だよ!聞いてなかったのかよ」

「ああ、悪い」


移動教室のため廊下を歩いていると同じクラスの連中が何やら恋バナで盛り上がっていたらしい。


「好きな子…」


丁度前を通ったので教室の中をチラリと覗き見るとみょうじは窓際の席で本を読んでいた。今日は眼鏡をかけている。ページをめくると顔にかかる艶のある長い黒髪を少し邪魔そうに耳にかけた。そのひとつひとつの動作にいちいち心臓がうるさい。


「あーみょうじな。確かに美人だよな。でもちょっと暗くね?こわっ!睨むなよ」


別に睨んではいない。みょうじを見ていたことがバレて恥ずかしかっただけだ。


「そんな赤山にいいこと教えてやるよ」

「?」


みょうじは図書委員らしいという情報を教えてもらい放課後、部活前に行ってみた。

いた。本当にいた。みょうじは背伸びをして上段の棚に本を戻そうと四苦八苦していた。

後ろから手を伸ばしみょうじの持つ本をそっと押すと簡単に本棚に戻った。驚いて振り返ったみょうじは突然背後にでかい男がいたからなのか目を丸くしている。


「あ、ありがとうございます…」

「いや、これくらい。こちらこそこの間はありがとう」


礼を言うとみょうじは大きな瞳をさらに大きくして目をぱちくりさせた。まさか…。


「覚えてないのか」

「えっと…」


ショックだ。かなりショックだ。確かに少ししか話していないがそこまで印象が薄い外見はしていないと思うが。


「倒れかけていたところを助けてもらった」

「ああ!あの時の!」


やっと思い出してくれたのか。肩をがっくり落とすとみょうじは不思議そうに首を傾げた。


図書委員の仕事が終わったというので一緒に昇降口まで行くことにした。


「気がつかなくてごめんね。私これがないと何も見えなくて」


みょうじはかけていた眼鏡を外すともう一度かけ直した。そういえばこの間は眼鏡なんてかけていなかった。


「同学年だったんだね。先輩だと思ってた」


それすら知らなかったのか。道理であの時敬語だった訳だ。今日はいろいろグザグサと刺さるな。


「みょうじ、部活は?」

「入ってないの。運動系は全然ダメで。昔から読書ばっかりしてたから」

「そうか入ってないのか…。そうだこれずっと返しそびれていた」

「わざわざありがとう」


ハンカチを受け取るとカバンにしまい俺を気遣う言葉をくれる。


「あれから体調はどう?」

「なんともない。もう無茶もしていない」

「そっかよかった。あの時は生意気なこと言ってごめんなさい」

「そんなことはないみょうじの言う通りだからな」

「赤山くん優しいね」

「そ、そんなことない」


赤い顔を隠すように逸らした。もう昇降口に着いてしまった。みょうじは靴を履き替えると手を振り背を向けた。


「じゃあ部活がんばってね」

「ああ…」


歩いて行く背を見送っていたはずなのに気がついたら足を踏み出していた。


「みょうじ!」


大声で呼び止め驚いて振り返ったみょうじの腕を掴んだ。


「どうしたの…?」

「マネージャーになってくれ!!」


みょうじはまた目を丸くしていた。


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