やる気のない先輩たちとどれだけ練習しても上手くならない自分自身に苛立ちが募り毎日がむしゃらだった。
心の奥にあるもやもやしたものを振り払うようにどこへ向かうでもなくただ走り続けた。そしてついに身体が悲鳴を上げた。当然だこんなオーバーワーク。睦にも何度も止められたのに。
電池が切れたようにその場に膝をついた。もう限界なのかもしれない。自分たちだけでは…。
「あの、大丈夫ですか?」
頭上から声を掛けられ顔を上げると女子生徒が心配そうに覗き込んでいた。見たことがある。同じ1年のみょうじだ。
「汗、すごいですよ。顔色も悪いです」
大丈夫だと返そうとしたが口からは本音が出た。
「吐きそう…だ…うっ」
「え、え、ここではちょっとまずいと思います。あ、もう少し行ったら水飲み場があります!そこまで頑張りましょう!」
俺の手を取ると立ち上がらせ小走りで水飲み場まで向かった。
「全部吐いたほうが楽になりますよ」
こんなとこ見られてみっともないと思いながらも背中を撫でてくれる手が優しくて心地よかった。
「悪かったな」
「いいえ、元気になったみたいでよかったです。これ、よければ使ってください」
ハンカチを差し出され思わず受け取ってしまった。
「運動部って大変そうですね」
「ああ、まあ…」
「…あの初対面の人間にこんなこと言われたくないと思いますけど一つだけ言わせてください」
「?」
「あまり無理しないでくださいね」
「え?」
「スポーツのことはよく分かりませんけど無理をして身体を壊してしまっては元も子もないじゃないですか。たくさん努力されているみたいですけど、このままではせっかくの頑張りも水の泡ですよ」
「水の泡…それは嫌だ」
「はい。なので無理はダメです」
頷くとみょうじはハッとして頭を下げた。
「すみません!何も知らないのに偉そうに説教して…」
「いや、気をつける。ありがとう」
安心したのか目を細めて笑ったみょうじに心臓が跳ねた。
「では私はこれで」
「今日は助かったありがとう」
みょうじはまた、微笑むと背中を向けて行ってしまった。
壊れてしまってはそうそう元には戻せない。
確かにみょうじの言う通りだ。せっかくの努力も苦労もすべて水の泡となってしまう。そんなのは絶対に嫌だ。これからは気をつけよう。
手を強く握り顔を上げて前を見据えた。
「あ…」
手にハンカチが握られたままだった。返しそびれてしまった。今度会ったらちゃんと返そう。もう一度話がしたい。