あの日から怖くて部活に行けなくなってしまった。私がいなくてもうめちゃんはしっかりしているから何の問題もない。
私がいなくても。
自分で言って虚しくなってしまった。
河原沿いをトボトボ歩いていると前から見知った金髪が走ってきて私の前で立ち止まった。
「江文くん自主練もいいけどちゃんと練習に出ないとまた試合に出してもらえなくなるよ」
「そういう先輩もサボってるじゃないっすか」
「はは…本当だ」
苦笑いすると江文くんは休憩と言って芝生に座った。
「今日は一段と暑いね」
「夏っすからね」
「ちゃんと水分補給してね」
「分かってますよ。それよりさっさと仲直りしてくださいよ。雰囲気最悪で居心地悪いんすよ」
「え、そうなの。ごめん。でも無理かも」
「は?」
「私いない方がいいんだって」
「本気で言ってんすか。さっき俺が言ったこと聞いてました?部内めちゃくちゃぴりぴりしてますよ」
江文くんの隣に座り膝を抱えた。
「私ね、少しでも役に立ちたくてたくさん勉強して毎日駆け回ってた。でもそんなの自己満足だった」
夏の暑さも日焼けも冬の寒さもあかぎれだらけの手も休日に出かけられなくても彼氏ができなくたってそんなのどうってことなかった。
「みんなの役に立てるなら。濯也くんがいてくれるならどんなことだって乗り越えられた」
なのに濯也くんのたった一言でこんなにも簡単に全部壊れてしまった。
「何を言われたか知りませんけどキャプテンが先輩を蔑ろにするなんてありえねえからいつまでもうじうじしてないでさっさと話し合ってくださいよ」
「うじうじしてて悪かったわね」
私だってこんな自分嫌で仕方がない。
「つか、濯也くんって呼んでるんすね。二人の時」
「あっ!口が滑った忘れて」
「無理。うける」
「違うのこれは!濯也く、キャプテンが名前で呼んでくれって言うから」
「知らねー腹いてぇ」
江文くんはお腹を抱えひとしきり笑った後、立ち上がった。
「じゃあ俺行くから」
「ごめんね、変な話して」
「…そんな髪型してるからじゃないっすか」
「?」
「暑くないんすか、その髪」
「暑いよ」
この陽ざしに黒くて長くて重い今のヘアスタイルは正直辛い。けど濯也くんが好きって言ってくれたからこれくらいどうってことない。
「二人ともバカっすね」
江文くんは呆れたように笑うと駆けて行った。