用事を済ませ宿に戻ると朝に弱いなまえが珍しく一番に降りてきていた。


「もう起きたのか珍しい」

「あ、おはようアイゼン。どこか行ってたの?」

「ああ、かめにんの所にな」

「ということは手紙を出してきたのね。今回は贈り物もしたの?」

「ああ」

「そう…いいなぁ…手紙」


なまえの言葉に首を傾げた。


「どうした急に。いつも一緒に行動しているのに必要ないだろ」

「…そうだよね。アイゼンの言う通りだよ。変なこと言ってごめんなさい」


なまえは視線を逸らすと丁度降りてきたベルベットに呼ばれ駆けて行った。

去っていくなまえの後姿を見つめていると丁寧な言葉遣いの割に語気が強い口調で非難の声を浴びせられた。


「信じられません!あんな言葉!」

「お主もまだまだじゃの〜」


振り返ると随分怒ったエレノアといつも通りニヤついているマギルゥがいた。


「なんのことだ」

「先ほどの手紙のことです!」

「手紙がどうした」

「妹には書いてやるのに愛しい恋人には書いてやらんのかえ?おかしな話じゃのぉ」

「いつも一緒にいるのに必要とは思わないが。用があるなら直接伝えればいいだろ」

「なまえの気持ち何も分かっていませんねアイゼンは」


ぴしゃりと告げられ思わずムッとしてしまった。


「俺がなまえの気持ちを分かっていないだと」

「ええ、分かっていません。好きな人からの手紙…たとえ大したことが書いていなくても自分の為に書いてくれた。それだけで嬉しいものです」

「お主は乙女心というものが理解できておらぬの」


男なのだから乙女心なんてそう簡単に理解できてたまるか。

しかしなまえもエレノアやマギルゥと同じ考えだったとしたら先程の自分の言葉や態度はひどくなまえを傷つけてしまったはずだ。


「普段なかなか言ってもらえない言葉が綴られた手紙…素敵ですよね」


想像したのかエレノアはきらきらと瞳を輝かせた。


「そ、そういうものか…」

「そういうものじゃよ」




今日も早く目が覚めてしまった。皆を起こさないようにそっとドアへ向かった。


「おはようなまえ」

「お、おはようアイゼン。相変わらず早いのね」


ドアを開けるとアイゼンが腕を組んで仁王立ちしていてビクッとしてしまった。無言のアイゼンにどうしたのかと声を掛けようとしたらズイッと手が伸びてきた。


「え、これって…」


手渡されたのは綺麗な封筒。これってどう考えても…。

アイゼンを見上げると引き寄せられ頬にキスされた。


「今日はいいことがありそうだな」


死神の呪いにかかっているとは思えない台詞を残してアイゼンは綺麗に笑うと背を向けて行ってしまった。

ぽかんとしてしまったけれどすぐに我に返りせっかくなのでアイゼンからの手紙を読んでみることにした。


これはエレノアとマギルゥに言われたから書いたのではない。自分の意志で筆を執ったということが初めに力説してあった。

エレノアとマギルゥに何か言われたのか。書かなければ知らないままだったのにアイゼンらしい。

読み進めていくと思わず何度も便箋を閉じてしまった。

理由は簡単だ。それはもう読むのを躊躇うレベルの甘くて恥ずかしくて何とも言えない、いや言ってはいけないようなことが数多綴られていた。


「なまえおはようございます。あ、それってもしかして!」

「手紙かえ?」

「え、う、うん一応」

「して、何と書いてあったのじゃ」

「マギルゥそのようなことを聞くのは失礼ですよ!」

「とか言ってお主も気になっておるくせに」


ニヤつくマギルゥに図星だったのかエレノアはうっと言葉を詰まらせた。


「そ、それは…」


言えない。言ってはいけない。とても人には見せられない。初めから見せるつもりはないけれど。


「お主がそこまで赤面するとは相当なことが書かれておるようじゃの」

「よかったですねなまえ」

「う、うん」


これは荷物の底の底に大切にしまっておこう。間違ってもライフィセットに見られようものならベルベットとエレノアに教育上よくないと怒られてしまう。

もう一度便箋を開いてみる。やっぱり恥ずかしい。けれど心がじわりと温かくなった。

アイゼンから手紙をもらえたことが嬉しくて幸せをかみしめるように手紙をそっと胸に抱いて目を閉じた。


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