一人になりたくて聖堂へ来たのはいいけれどメイルシオの聖堂はさすがに寒すぎた。モアナが入れてくれた熱すぎるお茶は飲めないけれど暖を取るには丁度いい。

コップを握りしめてガタガタ震えるさまはなんとも滑稽だ。そこまでして一人になりたかったのには理由がある。


「夜桜あんみつ?」

「はい。シグレ様の好物だったそうです」

「そうなんだ。どうしてそんなこと知ってるの?」

「ロクロウが教えてくれました」

「へ、へー」


ロクロウと聞いて心臓が跳ねた。この間のことを思い出してしまった。

キ、キスをしてしまった。そのあとずっと抱きしめられて、一度好きだと囁いてくれて、それから…それから別に何もない。少し虚しい。


「いつか食べに行く約束をしました」

「え…」


ロクロウとエレノアが?


「なまえも行きましょうね」


曇りない素敵な笑顔で紡がれる言葉がグサグサと胸に刺さる。悪気なんてもちろんない。エレノアは私の気持ちなんて知らないのだから。


「私は遠慮しておくよ」

「どうしてです?」

「ロクロウが誘ったのはエレノアだから…だから私はきっといないほうがいいよ」

「なまえ?」

「あ、ごめんマギルゥに呼ばれてるんだった。またね」


首を傾げるエレノアに背中を向けその場を足早にあとにした。

ロクロウもエレノアも深い意味なんてないのだろう。会話の成り行き上そうなっただけで…いや、本当のことは分からないけれど。ロクロウは案外軟派なところがあるのかもしれない。

ああモヤモヤする。この感情はなんとなく分かる。嫉妬だ。

私は生まれて初めて嫉妬をしてしまった。それもよりによってエレノアに。大好きなエレノアに。

そんな自分がとても嫌になった。


「儂は呼んでなどおらぬぞー」

「もう、いつもどこから盗み聞きしてるの」

「内緒じゃ♪」


また突然現れたマギルゥにため息が出た。


「ごめんなさい利用したみたいになって」

「別にいいがのぉ。それよりお主かわいいところもあるのじゃな」

「どこが、すごく嫌な人だったよ」

「嫉妬じゃろ?」

「うん…」

「恋する乙女じゃな」

「本当どうしてロクロウなんて好きになったのかな」

「お、清く認めたのぉ」

「さすがに認めるよ。嫉妬までしてるんだから」


ああ、もう嫌だと頭を抱えるとぽんぽんとマギルゥが撫でてくれた。


「よいよい。悩むがよい。試練があった方がさらに燃えるからのぉ。何かあったら儂が相談に乗るぞ。ただし解決はせんがの」

「マギルゥありがとう」


相変わらずのマギルゥに安心して少し気持ちが楽になった。そして聖堂なら今は誰もいないから少し一人で考えてみよと言われてやってきたのだ。

けれど考えるどころじゃなかった寒すぎる。やっぱり宿屋に戻ろうかな。エレノアにはおかしな態度をとってごめんねと謝ろう。


「う〜寒い寒い」

「そんなに寒いのか」

「うん。ってロクロウ!?」


問いかけに思わず返事してしまったけれど相手がロクロウだったので驚いてコップを落としそうになった。危ない危ない。

いくら冷めてきたからといってもまだ熱湯だ。今度モアナにお茶の入れ方を教えよう。

ロクロウの目を見れなくてコップを見つめていると突然取り上げられてしまった。そしてそのままゴクゴクと飲み干してしまった。


「なに勝手に飲んでるの」


じとりと睨むとコップを置いたロクロウの手が伸びてきて腕を掴まれ無理やり立たされ手を握られた。


「なまえの手は今、冷たいのか」

「え、うん。かなり」

「そうか。俺はやっぱり分からない。熱いとか冷たいとか感じなくなった」

「ロクロウ…」


引き寄せられ寒さで震える身体を苦しいくらいきつく抱きしめられた。


「震えてるな本当に寒いんだな」

「うん…でもロクロウはとても温かいよ」

「そうか」


ロクロウの背に腕を回してしばらく無言で抱き合った。


「なまえはこの戦いが終わったらどうするんだ」


二人で並んで座っていると私の手を握りながらロクロウがぽつりと呟いた。


「私はどこかに住むところを探してしばらくはそこで静かに暮らそうかな。そのあとの事はまだ分からない。ロクロウは?」

「俺は強いやつを求めてまた旅にでも出るかな」

「やっぱりね。そんな気がしてた」


ずっと一緒にいられるなんて最初から思っていない。人間と業魔だもの。この旅でだけでも思いが通じ合ってよかった。好きだと思える相手ができてよかった。


「で、たまにはなまえの所に帰る」

「え?」

「うむ。いいなそれ。そうしよう」


ロクロウは一人で納得したように頷いている。


「一緒に暮らそうな」


当たり前のようにそう告げるロクロウにぽかんとしてしまった。


「ほ、本気?」

「当たり前だろう。好いた同士が共にいるのは当然のことだ」


なんだろう。私がいろいろ深く考えすぎだったのだろうか。それともロクロウが何も考えていなさすぎるのだろうか。まあどっちでもいいか。


「うん。そうしよう。私、絶対生き残るから。ロクロウもね」

「承知!」


これから数えきれないほどの困難が待ち構えているだろうけどロクロウがいてくれたら乗り越えられる。

本気でそう思った。




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