試行錯誤を重ねて漸くおいしいイモケンピが完成した。もっといいものを作って食べてもらいたいけれどロクロウはこれが食べたいらしい。
この時間ロクロウは甲板に出て夜空を肴に心水で一杯やっているはずだ。丁度いい試食してもらおう。お皿に盛りつけてロクロウの元へ向かった。
「ロクロウ」
「お、なまえか」
「えっと」
本人を前にするとなんだか途端に恥ずかしくなってお皿を自分の後ろに隠してしまった。
「ま、とりあえず座れ」
自分の隣をぽんぽん叩いて座るよう促すが私はまだその場に立ち尽くしていた。様子がおかしい私を不審に思ったのか首を傾げて立ち上がり私の元まで歩いてきた。
「どうした?」
「こ、来ないで」
「なまえから来たのにか?」
「や、やっぱりなんでもな、あっ!」
不自然に背中に腕を回している私の背後にロクロウはサッと回った。さすが素早い!てそうじゃなくて。
「お!それはもしやイモケンピ!」
「うん…」
「作ってくれたのか!」
「うん…」
恥ずかしい。とても恥ずかしい。ロクロウの笑顔が眩しい。
「よし、早速頂こう」
手を引かれ先程ロクロウがいた場所へ座らされた。
「いただきます」
「どうぞ」
丁寧に手まで合わせてロクロウはイモケンピを一つ口へ放り込んだ。
「美味い!」
「本当に?」
「嘘ついてどうする」
「ロクロウなんでも美味いって言うから」
「そうか?美味いものを美味いと正直に言っているまでだ」
「そっか。よかった」
「ありがとな」
「ううん。喜んでくれて嬉しい」
ロクロウの杯に心水を注ぐとそれを一気に飲み干した。
「やっぱり心水にはイモケンピだな」
「そんなに合うの?」
「なまえも試してみろ」
「ではせっかくなので」
ロクロウに心水を注いでもらってしばらく二人でいろんな話をした。
「月が綺麗だな」
「え、うん。そうだね」
見上げる空に浮かぶ月は確かに真ん丸で綺麗だ。船の上なので遮るものが何もない美しい夜空だ。
「なまえ、知ってるか」
「?」
「月が綺麗ですねっていうのは愛の告白だそうだ」
「えっ」
ニヤリと口角を上げたロクロウにドキッとして顔が熱くなってきた。
「なんかの本に書いてあった気がする」
「その適当な感じがロクロウらしいね」
さっきの月が綺麗だなはそういう意味で言ってくれたのかな。
ロクロウが何を考えているのか分からない。
なんだか狡い。
ロクロウに身体を預けて肩に頭を乗せた。
「お、酔ってるのか」
「そうかもしれない」
逞しい腕で肩を引き寄せられロクロウを見つめるとそっと近づいてきて唇が重なった。