港に着いて少しの間自由行動となった。
何かおもしろいものはないかと散策していると本がずらりと並ぶお店を発見した。掘り出し物があるかもしれないとそこで足を止め覗かせてもらうことにした。
あ、レシピ本だ。丁度料理のレパートリーを増やしたいと思っていたところだ。
手に取りパラパラと捲るとある文字が目に飛び込んできて思わずページを捲る手を止めてしまった。そしてある業魔の顔が頭に浮かんだ。
「ほほーイモケンピか」
「マ、マギルゥ!」
いつからいたのか背後から手元の本を覗きこみニヤニヤしているマギルゥがいた。
「ロクロウが喜ぶのぉ」
「ち、ちがっ!て、まさかこの間の盗み聞きしてたの!?」
「偶然じゃよ〜。水を飲みに行ったらお主らがいい雰囲気じゃったから邪魔をせぬようこっそり聞き耳を立てておったのじゃ」
「それを盗み聞きというのよ」
「良いではないか作ってやれば」
「ざ、材料がないから」
誤魔化すように告げるとマギルゥがクイッと親指で近くのお店を差した。
「あ、さつまいも…」
「お買得のようじゃぞ♪」
にっこり笑ったマギルゥにもう何を言っても敵う気がしなくて清く諦めた。
「分かったよ。このレシピ本も材料も買うよ」
「それが良い。それにしてもロクロウはお主に随分惚れておるようじゃの」
「私の腕にでしょ」
「そうかえ?お主自身にじゃと思うがの」
「それはないよ…それなりに戦えてる珍しい女だから興味があるだけだよ。だってロクロウは業魔でしょ。それに人間らしい感情が無くなってきてるって聞いた」
「ロクロウが人間だったら違ってたかえ?」
「どうかな…。人間だったらそもそも出会ってすらいないはずだし」
そらそうじゃとマギルゥは相槌を打った。
「ロクロウは普段は割といい人…じゃない、業魔なのに戦っている時とかシグレ様と対峙した時なんかは正直怖い。けど、別に今のままでいいと思う。まあ業魔のロクロウしか知らないからこんなことが言えるんだけど」
「お主満更でもなさそうじゃの」
マギルゥに言われてハッとした。これじゃ私も惚れてるみたいじゃないか。
「業魔と人間なんて相容れないよ…」
「ロクロウなら?」
「ロクロウなら…」
「素直になることじゃなまえ」
素直に…か。
ロクロウなら、ロクロウならいい…。業魔だろうがなんだろうがロクロウならなんだっていい気がした。