一行は休息を取るためとある村に立ち寄った。そこはあまり兵士が配置されておらず久しぶりにゆっくり休めそうだ。そう思った矢先、近くで人々の歓声が上がった。


「なんじゃ、なんじゃ」


マギルゥに続き皆の視線がそちらへ向いた。視線の先には人だかりができており興味本位で隙間から覗いてみると小さな行列のようなものが横切っていた。


「わぁ綺麗!ねぇエレノアあれはなに」

「花嫁行列ですね。あのような結婚式を行う国があると本で読んだことがあります。私も実際に見るのは初めてです。本当に綺麗ですね」


先頭には美しい衣装を纏った女性がゆっくりと歩いていた。皆が祝福の声を上げる中その女性はどこか憂いを帯びた顔をしているように見えてならなかった。

ライフィセットとエレノアが瞳を輝かせている隣でロクロウが顎に手をあて首を傾げた。


「あれは…」

「どうしたのロクロウ?」

「いやな、あれはどう見てもなまえだなと思ってな」

「知ってるの?あの女の人」

「俺の記憶が正しければなまえは俺の許嫁だ」


えぇー!!と大声を上げ見物人にじろりと睨まれてしまったのでとりあえずその場をそそくさとあとにした。人のいないところまで移動して一行はロクロウに詰め寄った。


「許嫁って本当?」

「ああ、本当だ」

「でもあの人お嫁に行くんだよね…?」

「そうみたいだな」

「そうみたいだなってあんた…」

「いいのかえー?許嫁が別の男の元に嫁ぐというのにぼんやりしていて」

「俺なら耐えられんな」

「………」


ロクロウは無言のままもう一度花嫁行列を見て目を細めた。




私は今日、愛してもいない男の元へ嫁がなければならない。

相手の所に行く前に村で一番広い屋敷でしばし待つこととなった。今なら人も少ない。この隙に逃げだしてしまいたい。けれどそんなことは無駄なあがき。捕まって連れ戻されるのがオチだ。

これが家のためなのだ。あの家に女として生まれてしまった以上お家存続のためにどこか名のある家に嫁がなければならない。仕方がないこれは定めなのだ。そう何度も自分に言い聞かせていたけれど私の心はまるで理解してくれなかった。

愛する人から贈られた簪を握りしめた。こんなものいつまでも持っていてはいけないのに。

ロクロウ…。

かつての許嫁を思い出し胸が痛んだと同時にふっと部屋の明かりが消えた。


「え、停電…?」


四方がふすまに囲まれている部屋なので外からの光が一切入らない。真っ暗な中、着物を踏まないように慎重に立ち上がり辺りを見渡した。暗闇で何も見えない。近くで畳を踏む足音がして肩が跳ねた。


「誰…?んっ!?」


振り返ろうとすると背後から口を塞がれた。混乱と恐怖で足をバタつかせると腹部にぐるりと腕らしきものが回ってきて足が地から離れた。


「っ!んー!」


暴れてみてもまるで意味がなくそのままどこかへ連れられてしまった。

一体どこへ連れて行かれるのだろう。恐ろしくてずっと目を瞑っていると床に下ろされる感覚がした。恐る恐る目を開けると薄暗い部屋の中、目の前にぎらりと赤く光る何かが見えた。


「っ!」


声にならない悲鳴を上げるとそっと肩を掴まれた。


「なまえ、俺だ」

「!その声…ロクロウ!?」

「驚かせて悪かったな」


闇に目が慣れてきた。両手を伸ばして私の知っているロクロウと長い髪に隠れている知らないロクロウに触れた。


「ロクロウ…本当にロクロウなのね」

「いろいろあってな、こんな姿になっちまった。怖いか?」

「いいえ。最初は驚いたけれどこうして生きていてくれるだけで嬉しい」


そう告げると堪えていたものが零れ落ちた。


「死んだと聞かされていたから」


頬を伝う涙をロクロウは優しく拭いそのまま抱き寄せてくれた。


「せっかく綺麗なのに泣いたら台無しになるぞ」

「嬉しくない。こんなの望んだことじゃない」


ロクロウは身体を離すと手を握ってくれた。


「そうか。なら攫っても問題ないな」


こくりと頷いた。家のことは少し胸が痛む。けれどロクロウは死んだと嘘をつかれ強制的に縁談を組まされた。そのことが許せなかった。


「ロクロウこれ…」

「持っていてくれたのか」


簪を見せるとそれを受け取り既にあった華美な飾りを取り払い器用にまとめて髪に挿してくれた。


「やっぱりこっちの方が似合うな。綺麗だなまえ」

「ありがとうロクロウ」


引き寄せられ口づけされ今度は絶対に離さないと誓ってくれた。


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