6月15日は穂刈篤の誕生日な訳でプレゼントを選ぶということが苦手な私は直接欲しいものを尋ねた。
少し迷ったあと返ってきた答えが「なまえの手料理が食べたい」というものだった。
OK、OK手料理ね任せてと言いたいところだけど私は実家でぬくぬくと暮らしているから普段料理なんて全くしない。
最後に包丁を握ったのは確か調理実習だ。あのときもほとんど今ちゃんにやってもらった。そうだ!今ちゃん!
「ごめんね手伝ってあげたいけど当真くんと柚宇の勉強があれなのよ」
今ちゃんは申し訳なさそうに眉を下げた。私の方こそ申し訳ない。あれなら仕方がない。
どうしようとぐるぐる考えながら廊下を歩いていると硬いものにぶつかった。
「いたっ!」
「悪い。平気か」
顔を上げるとレイジさんの腹筋があった。硬い。
「大丈夫です。すみません少し考え事をしてまして…」
そうだ!レイジさん!
「レイジさん!弟子にしてください!」
バッと頭を下げた私にレイジさんは首を傾げた。
訳を話すとすぐに快諾してくれ私の修業は始まった。
授業が終わると教室を飛び出して玉狛支部に向かった。
料理なんてほぼ未経験な私にとって一秒でも惜しい。早く上達して篤の好物をたくさん作って喜ぶ顔が見たい。
レイジさんの指導のおかげでなんとか篤の好物を取り入れた料理は作れるようになった。
他のものは…まあこれからだよね!
いよいよ明日は篤の誕生日だ。その日はお互い任務もない。
両親は仕事で遅いので家に呼んで手料理をごちそうしよう。
楽しみだな。
◆◇
「えぇ!篤、休みなの!?」
登校してすぐ篤に会いに行くと教室に篤の姿がなかった。
「風邪だってさ」
「彼女なのに知らねーのかよ」
心配そうな鋼くんの隣でニヤついたカゲにからかわれた。
知らなかった…。
そういえば最近、放課後はすぐに玉狛に行っていたからあまり篤と話をしていなかった。
最低だ私。
篤が心配で仕方がない。
真っ青な私を見て心配してくれた今ちゃんに訳を話すと先生には上手く言っておくからと早退させてくれた。今ちゃんありがとう。
学校が見えなくなった頃全速力で走って篤の元に向かった。
インターフォンを鳴らすと篤が出てきてくれた。
「なまえ…?どうした学校は」
「篤が風邪って聞いて早退してきた。大丈夫?」
「大丈夫だ」
「ごめん篤…私」
泣きそうになると、とりあえず中に入れと言われた。上がらせてもらうと辛いのかすぐにベッドに横になってしまった。
「ごめん来ない方がよかったかな…」
「そんなはずない。さっきからどうして謝るんだ」
「だって風邪なんて…具合悪かったなんて全然気づかなかった」
「これは今日起きたら突然だ」
「そっか…」
「でも最近まともに話せていなかったな。なまえは放課後になったらすぐどこかに行ってしまって」
「それは…」
「寂しかったな。すごく」
「うっごめんなさい」
「どこに行ってた」
「えーっと…それは」
「言えないのか。そうか俺に言えないことか」
「ち、違うの!」
「冗談だ」
私が焦ると手が伸びてきて頬を撫でられた。触れる所が熱い。その手を取って強く握った。
「あのね玉狛に行ってたの」
「玉狛?」
「うん。篤、誕生日に手料理が食べたいって言ったでしょ?私、料理なんてできなくて、それで…」
「レイジさんに教わってたのか」
頷くと手に力が籠った。
「そこまでしてくれたのか俺の為に」
「でもそれで篤との時間潰してたら意味ないよね」
「嬉しいぞ俺は。なまえが俺の為に一生懸命になってくれるなんて」
「何度も言わないで恥ずかしいから」
「悪いな。せっかく頑張ってくれたのに体調崩して」
「ううん。治ったら篤の好きなものたくさん作るから早く元気になってね」
「………」
「どうしたの?わっ」
黙り込んだ篤に首を傾げると握っていた手を勢いよく引かれた。
「あの篤くん?いったい何を…」
「元気になってきた気がする」
「えっちょっ、ま、」
ぐいぐい引っ張られてベッドに引きずり込まれた。
抵抗してみても力で敵うはずなんてなくて篤の上に倒れこんでしまった。密着した身体が熱い。
「篤、体温上がってるよ」
「あー…熱上がってきたなこれは」
「もう休んだほうがいいよ」
「そうだな寝るか」
「え、このまま寝る気!?」
身じろいだら腕が巻きついてきて身動きが取れなくなった。
「私は抱き枕じゃないよ」
「こうしてる方が落ち着く。早く良くなる気がする」
仕方がない恥ずかしいけど今日だけは篤の好きなようにさせてあげよう。誕生日だしね。
あ、そうだ、まだ言ってなかった。
「篤、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
身体を起こしてキスをすると笑ってくれた。
さすがに辛いのか目を閉じて眠ってしまった。
私もなんだか眠くなってきた。
篤に抱きついて目を閉じた。
誕生日おめでとう。
これからもずっと一緒にいてね。