「なまえ、話がある」
「なに?」
「その前に呼ばれてるから行ってくる」
「えー…マイペース…」
やっと授業が終わりさあ帰ろうと思ったら珍しく篤が教室に来た。
話があると言うので聞こうとしたらこれだ。仕方ない戻るまで待っていよう。
それにしても呼び出しってなんだろう。
「あれは告白ね」
「えっほんとに!?」
「うん。間違いないよ」
いつのまにか隣に来ていた摩子ちゃんがうんうん頷いている。
「どうして分かるの?」
「女の勘よ」
「女の勘…」
「なんてね。偶然見たの穂刈くんが後輩の子に放課後来てくださいって言われてるとこ」
「告白…どうしよう」
途端に不安になり胸が締め付けられるように苦しい。
摩子ちゃんは大丈夫だよと励ましてくれ任務があるからと帰ってしまった。
誰もいない教室で自分の席に座っているとモヤモヤとネガティブなことばかり考えてしまう。
篤と付き合いだしたのは最近だけど友達期間が長かったこともあり恋人というより友人の延長のような関係になってしまっている。
私はスキンシップが苦手で人前でイチャイチャなんてもってのほかで二人きりでも甘えたりできない。
篤は逆で隙あれば触ってこようとするのでよく手をぴしゃりと叩いていた。
一緒に登校したり下校したりそういうのもあまりなかった。
告白も篤からしてくれた。
そういえば篤に好きって一度も言ったことない気がする。どうしよう私たち全然恋人同士っぽくない。
篤はうんざりしているのかもしれない。
甘えるのも下手で触らせもしない。挙句に好きの一言もないなんて私なら嫌になる。
もう私のことなんて嫌いになっているかもしれない。
話があるってもしかして別れ話…?なんだか深刻な表情をしていた気がする。
別れるなんてそんなの絶対に嫌だ。
マイペースすぎてたまに振り回されることもある。普段無口なくせにメールでは恐ろしいことになるところにみんな引くけどそんなことどうってことない。
そんな少し変わったところも優しいところもかっこいいところも全部大好きだ。
私はこんなだけど篤が好きな気持ちは本物だ。
それにしても遅いな…まさか告白受けたんじゃ…。どうしようどうしよう別れたくない。
不安に駆られていると教室のドアが開いた。
「篤!」
慌てて篤の元へ駆け寄った。
「悪い。待たせたか」
「遅い、遅いよ!なにしてたの!」
「黙っていても仕方ないから言う。告白された」
「やっぱり…!どうしてこんなに時間かかったの!」
自分でもかわいくない言い方だと思った。でも頭が真っ白になって上手く考えられなかった。
「なまえどうしたんだ」
「告白受けたの?私は篤のいいところも悪いところも全部好き!その子より私の方が…絶対私の方が篤のこと好きだよ!」
私が訳の分からないことを叫ぶと篤は口元を覆って俯いてしまった。
「篤?どうしたの」
肩を震わせている篤を覗き込んだ。
「なに笑ってるの…」
「いや、悪い」
「なにがおかしいの」
「違う、これは嬉しくてだな」
「え」
「全部好きか…私の方が好きか…すごいな」
「え、あっ、うわ…」
何言ってるんだろ私…。
「嬉しい」
「本当?うんざりしてない?」
「うんざり?」
「だって…こんなわがままで」
「かわいいと思うぞ、そういうところも」
「触らせないし」
「触りたくて付き合っている訳じゃないからな」
「どうしてそんな風に言ってくれるの」
「なまえと同じだ。いいところも悪いところも全部好きだからな」
「告白は…?」
「断ったに決まってる。なまえがいるからな」
「私でいいの?」
「なまえがいい」
「嬉しい…どうしよう…ねえ、篤。ここ、ここ座って」
机をぽんぽん叩くと篤は首を傾げた。
「早く!」
「なにかあるのか」
「そのままじゃ届かない…」
「どうしたんだ」
「キスしたい…」
自分からこんなこと言うのは初めてで恥ずかしくて消え入りそうな声で呟いたのに篤はサッと机に座った。
篤の前に立つといつもより目線が近くて緊張する。
肩に手を置くとそっと触れるだけのキスをしてすぐ離れた。
いつのまにか腰に腕を回されてそのまま引き寄せられた。
「好きだなまえ」
「うん…私も篤が好き」
ずっとこうしていたいけど気になることがあったんだった。
「話ってなんだったの」
「ああ、映画のチケット貰った荒船から。こういうのは見ないからよかったら二人で見ろって」
「ありがとうこれ見たかった。え、話ってこれ?」
「ああ。どうした」
「深刻そうな顔してたから」
「今日出た課題が全然解らなくてな」
「あ、数学の?私も出たよ全然解らない」
「あとで荒船に教えてもらうか」
「うん。ねえどうして戻ってくるのあんなに遅かったの」
「鋼と廊下で会った。つい話し込んだ」
「そっか、よかった」
「そんなに不安だったのか」
「不安だったよ…戻って来なかったらどうしようって」
「いつになく素直だな。今日は」
「いつも素直じゃなくてごめんね。好きなのは本当だからね」
「そんな不安そうな顔するな。なまえの気持ちはちゃんと伝わってる」
「うん…」
頬を撫でてくれる手が優しくて温かい。
「帰るか」
「うん」
篤は立ち上がると私の手を握った。
「これからは毎日こうやって帰るぞ」
「え、やだ、恥ずかしい」
「却下」
手を引かれ教室を出ると恥ずかしいとか言いながらやっぱり嬉しくて指にぎゅっと力を入れると篤も握り返してくれた。