最近思うように戦績が伸びず身体も上手く動かせない。

一度診てもらおうとボーダー提携の病院へ行くことにした。


「トリオン器官の成長が止まっていますね。あなたのような若い方には珍しいですがない訳ではありません。もう戦闘員は難しいでしょう」


先生の言葉に頭が真っ白になった。

病院を出るといつのまにか本部に来ていた。身に染みついた習慣っておそろしい。

ここに来てももうできることなんてないのに。

周りの賑やかな声も今は癇に障り一人になりたくてふらふらと屋上に向かった。


よかった誰もいない。


嘘みたいに青い空といつもなら心地よく感じる日差しも今は気分をさらに暗くさせるだけだった。


どうして、どうしてなの。これからだったのに。


攻撃手として戦ってランク戦で上の順位にまでいけた。やっとここまで上がってきたのに。


どうして、こんな、どうして私なの…。


同期の中では一番の出世頭だった。先輩も期待してくださったのに。きっと天狗になっていたんだ。そうだこれは罰なんだ。俯いても涙すら出なかった。


もうここにいたくない。屋上を出て廊下を歩いた。外に出たらもう戻ってくることもないだろう。新しい何かを見つけてまた歩き出そう。

そう決意し思いを振り切るように小走りで角を曲がると思い切り誰かとぶつかり尻餅をついた。


「ぎゃっ!」

「いって!」


さっそく出端を挫かれた!それより謝らないと。


「すっすみませんっ!」


顔を上げて青ざめた。


「あっ?みょうじか」

「か、影浦くん!」


サーッと血の気が引いた。よりによって影浦くんに激突してしまった。座り込んでいる私を見下ろすと手を差し出してくれた。


「え、あ、ごめん。ありがとう」


手を掴むと引き上げてくれた。


「ありがとう影浦くん」


顔を上げると目が合った。あれ、なんだか影浦くんが歪んで見える。


「はっ?おっおい、なに泣いてやがる」

「え…」


自分でも気がつかなかった。私は泣いていた。慌てて拭ったけれど涙は止まってくれなかった。


「あ、あれ?なんで」


さっきまで涙なんて一滴も出なかったのに。周りにいた人たちが私たちに気づきざわつき始めた。


「チッおい、ちょっとこっち来い」


影浦くんは頭を掻くと私の腕をぐいぐい引っ張り人のいない部屋に押し込むとドアを閉めた。


「おい、いい加減泣きやめ!俺が泣かせたみたいになってんだろが」

「ごっごめん影浦くん」


影浦くんを見るとまた涙がぼろぼろ流れた。


「だから泣くなっ!不細工になるぞ」

「うぅっひどい…」


影浦くんは服の裾部分で私の顔を乱暴に拭いだした。お腹が丸見えだ。


「なんだ何かあったのか」

「うっ、トリオン、が」

「あ?」

「私のトリオン器官、もう成長、止まっちゃったぁ」


嗚咽交じりで告げると影浦くんは手を止めて目を見開いた。


「嘘だろ…」

「嘘じゃないもう戦えないここにはいられないよぉ」


堪えきれずうわあああんと子供みたいに号泣すると影浦くんはおろおろし出した。


「おっ落ち着けっ!おい、泣くな!」

「うわあああん!」

「なんだこれどうしたらいいんだ!」


慌てふためいた影浦くんは私の後頭部をガッと掴み自分の胸に押し付けた。


「とりあえず落ち着け」


空いてる手で背中を摩ってくれた。


「大丈夫か」

「うん…」


影浦くんの心臓の音がして不思議と落ち着いてきた。


「すっげ不細工になってるぞ」

「う、うるさい」


影浦くんの胸を押し返して離れた。


「お前やめんのか」

「うん…ここにいても仕方がないし」


俯くと両肩をガッと掴まれた。


「ひぇっ!?」

「やめんな」

「へっ!?」

「オペレーターでもエンジニアでも雑用でもなんでもいい。ここにいろ。いいな、絶対やめんなよ」

「は、はい…」


あまりの迫力におもわず頷いてしまった。




◆◇




「あ、雅人ー!今帰り?一緒に帰ろー」

「…おう」


昇降口で靴を履きかえているとなまえが小走りで駆けてきてとなりに並んだ。二人で本部に向かっているとなまえはお腹を押さえた。


「なんだかお腹空いたね。本部行く前に何か食べて行こうよ」

「あ?いいけど、お前さっき菓子食ってたろ太るぞ」

「見てたの!?だ、大丈夫!育ち盛りだから」

「胸は全く育たねーな」

「セクハラよ!セクハラ!」

「セクハラも相手選ぶわ」

「なにそれひどい!あ、いい店発見!ほら早く!早く!」


腕を掴もうとするその手を握った。なまえは不思議そうに振り返った。


「なまえ普通に俺のとなりにいるよな」

「え?なにか変?もしかして嫌…?」

「嫌じゃねぇ…」

「そっかよかった」


なまえは安心したように笑った。


「私がこうしていられるのは雅人のおかげだから。あの時引き止めてくれなかったら今頃どうしようもない人間になってたかも」

「懐かしいな。まだ高1だったな確か」

「うん。私たちもう2年も一緒にいるね!」

「あん時のお前、最高に不細工だったな」

「ちょっ今いい感じだったのに!てか忘れてよ!」

「忘れらんねーわあの顔は」

「そういう雅人だっておろおろしてかわいかったなー。あ、私のこと抱きしめてれくれてー。惚れそうになったわ」

「は!?おろおろなんてしてねーし。誰が抱きしめるかっ!忘れろや!」

「忘れません!大切な思い出ですので!あの時の雅人は本当に」

「おい、その口閉じろ」

「いやです。雅人は本当は優しくていい子で」

「反抗期かクソッ!よしキスしてやるから閉じろ」

「え、ほんと?」


腰に腕を回して引き寄せると嬉しそうな顔しやがった。目を閉じたなまえに触れるだけのキスをすると首筋に噛みついてやった。


「いった!痛い!ちょっなにしてんの!」


俺を押し返すと首筋を摩りながら鏡を取り出した。


「歯型ついてる!信じられない!」

「うまかったぜ」

「バッカじゃないのっ!」

「ざまーみろ」


ゲラゲラ笑うとなまえは俺をボカスカ殴り始めた。


「あー落ち着くわー」

「なにがっ!」

「なまえのとなり」

「うっ」


なまえは殴っていた手を止めて変わりに俺の手を握った。


「私も…」


赤い顔しやがってかわいいやつ。



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