「なまえ、結婚してくれ」

「うん。えっ!」


なまえは持っていた箸を落としてぽかんとしていた。


「待って。ちょっと待って」

「待ってるぞ」

「今なんて言った?」

「なまえ、結婚してくれ」

「それは聞いた」

「うんって言ってくれたな」

「言ったけどそうじゃなくて。どうしてこんな普通にご飯食べてる時に…」

「普通に幸せだったから」

「そうですか…」


なまえは、はぁ…。とため息をついて額を押さえた。


連日夜の防衛任務でくたくたになり漸く帰れることになった。

マンションのドアを開ければ明かりが点いていてなまえが笑顔でおかえりなさいと迎えてくれた。

お風呂とご飯どっちにすると言われてなまえと言いそうになったのを堪えてごはんと言えばすぐに温かい食事を用意してくれた。おいしい。

以前は帰れば当然部屋は暗くて風呂も沸いてなくてごはんなんてもちろんなくてなまえはいなくてそれが当然だった。

なまえと暮らすようになって笑顔のなまえがいて一緒にごはんが食べられてこんな幸せなことってあるだろうか。そう思ったら気がつけば結婚してくれと言っていた。


「篤」

「ん」

「嬉しい。結婚しよう」

「いいのか」

「いいに決まってるよ」

「そうかありがとう」


なまえの手を握ると少し恥ずかしそうな笑顔をくれた。




早々に籍は入れたけれどお互いボーダーでのあれやこれやで忙しくて式は挙げていなかった。

先延ばしになってしまっていたけど漸く時間が取れそうだったので二人でいろいろプランを考えていた。なまえのウェディングドレス姿が早く見たい。白無垢もいいな…。


「ねえ、やっぱりやめない?」

「どうした急に」

「うーん…」

「嫌なのか」

「違うそうじゃないの」

「何かあったのか」

「何もない…何もないよ」

「なまえ…」


最近のなまえはどこか様子がおかしい。

話し合いに乗り気だったり今みたいに突然気分が沈んだりする。なまえの背を撫でるように抱きしめると腕を回していつもより強く抱きついてきた。


「どうしたんだ本当に」

「…不安なの」

「不安?」

「なにが不安なのかよく分からない…でもなんだか心が落ち着かなくて…ねぇぎゅっとしてもっと強く抱きしめて」

「安心しろ俺はここにいる」

「うん…ありがとう」


なまえの髪にキスして腕に力を入れると安心したように目を閉じた。


今朝のなまえは普段通りだった。

だが最近のなまえは明らかに様子がおかしい。一体どうしてしまったのだろうか。


任務を終え本部に戻ると加賀美が血相を変えて駆けてきた。


「穂刈くん大変!なまえが!」





「なまえ!」


病室のドアを勢いよく開けるとなまえはベッドに腰掛けて驚いた顔をしていた。


「篤、来てくれたの?ありがとう」

「倒れたって…平気なのか」

「うん平気。あのね篤…」

「穂刈さーん。あら?もしかして旦那さん?」

「あ、はい」

「お話終わられたら先生のところに来てくださいね」

「分かりました」


なまえを呼びに来た看護士さんは笑顔で去っていった。


「先生のところって重病なのか」

「違うよ…篤あのね私」











「いるのかここに」

「いるよ」


病院から帰ってソファに座るなまえの前に膝をつきお腹をそっと撫でた。


「最近の私情緒不安定だったでしょ。きっと妊娠してたからなんだね。全然気がつかなかった」

「どこも悪くなくてよかった」

「心配かけてごめんね。式また伸びちゃったね」

「いつでもできる」

「うん」


お腹に顔を寄せると頭を撫でながらなまえは笑った。


「まだ分からないよ。お腹大きくなってきたら蹴ったりするんだって」

「楽しみだな」

「篤。これからもずっとそばにいさせてね。この子も一緒に」

「ああ。俺は幸せだな」


いつだったかなまえはあの日一緒にいてくれたのが俺でよかったと言ってくれた。

それは俺も同じだった。

なまえじゃなければきっとここまで一緒にいなかった。これからもそうだ。

家族が増えて乗り越えるべきことがたくさんあると思うけど何年、何十年経ってもこの想いは変わらない。

俺はずっとなまえのそばにいる。




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