「みょうじ」
「穂刈…」
「帰りか」
「うん」
「送る」
「うん…」
マンション前についてもみょうじは中に入ろうとしなかった。
「元気ないな今日は。なにかあったのか」
「穂刈…」
珍しいみょうじが今にも泣きそうな顔をしている。
「どうした言ってみろ」
肩に触れると頷いた。
「私、穂刈の負担になってるって…」
「誰だそんなこと言ったのは」
「今日隣のクラスの子に呼び出されてそこに穂刈のこと気になってるって子がいたの。付き合っていないなら近くにいないでって…」
恐いな女子の集団は。
「負担になってるから束縛しないであげてって言われた…。そう言われてハッとしたの。いつまでも頼っていたらダメだって穂刈はもっと自由になるべきだって…だから穂刈は…」
「つまり俺はみょうじのそばにいないほうがいいってことか」
「え」
「分かった」
肩から手を離すと背を向けた。みょうじがそう言うならそうするしかない。
正直ショックだがいつかこんな日が来るとどこかで思っていた。
結局あの疑問の答えは出なかった。
どうすればずっとみょうじのそばにいられたんだ。
足を一歩踏み出すと腕を掴まれた。
「待って!」
驚いて掴まれた腕を見るとみょうじがしがみついていた。
「行かないで!お願い!」
「俺がいるとみょうじが困るんだろ。だったら」
「違う!違うの!好きなの…穂刈が好きなの…」
顔を上げたみょうじは涙を流していた。
「どうすればいいか分からないの…」
「みょうじ…」
「あの日からずっとそばにいてくれて気がついたら穂刈のこと好きになってた。でも今日のことがあって穂刈のこと束縛しちゃいけないと思って離れようと思ったけど離れられなくて…変だよね矛盾しててでもどうすればいいか分からないの」
「好き…そうだ…」
「穂刈…?」
「それだ」
「え?」
「俺はどうすればみょうじとずっと一緒にいられるのか考えていた。そもそもどうしてそんなこと考えてしまうのかも分からなかった。でも今みょうじが言ってくれて分かった」
「穂刈…」
「好きだ俺もみょうじのことが」
「本当…?」
「本当だ」
「嬉しい…夢みたい」
「ずっとそばにいてくれないか」
「いる!ずっと穂刈と一緒にいたい」
「ありがとう」
みょうじは涙を拭うとやっと笑顔を見せてくれた。
「離してくれないか。腕」
「あ、ごめん嫌だった?」
「そんなはずない。ただ…」
「ただ?」
「抱きしめられないだろこのままでは」
「え、わっ!」
腕を解いたみょうじを思い切り引き寄せ抱きしめた。
「好きだなまえ」
「私も篤が好き」
「キスしていいか」
「え、う、うん」
頬に手を添えそっと近づくとなまえは目を閉じた。
唇が触れて幸せが込み上げてくる。
初めてのキスはきっと一生忘れない。