「はい穂刈!ハッピーバレンタイン!」
「くれるのか」
「うん。初めて作ってみたけど上手くできたから穂刈にも食べてほしくて」
「手作りか」
「うん。味見したから安心してね」
「ありがとう」
「あれで付き合ってないんだから謎だな」
「本当よね」
「え、付き合ってないんですかあの二人」
「そうなのよ」
荒船と加賀美の言葉に半崎は二人を不思議そうに見た。
「どう見てもラブラブカップルなのに」
「ラブラブカップルってお前古いな」
「そんなのいいんすよ」
「不思議よねあの二人。なんだか独特っていうか。切っても切れないなにかがある気がする」
「唯一無二」
「あーそれしっくりくる」
「そういう存在がいる人ってなかなかいないですよね」
◆
「なーお前ら本当に付き合ってねーの?」
「前も言っただろ付き合っていない」
「そんな手作りチョコ貰っておきながら?」
「上手くできたからくれた。それだけだ」
「それだけって…お前はどう思ってるわけみょうじのこと」
「大切だな。何よりも」
「自分自身より?」
「ああ」
「まじで?凄いなお前」
「ちょうどいい当真に聞きたいことがある」
「俺?なに」
「みょうじとずっと一緒にいるにはどうすればいい?そもそも俺はなぜこういうことを考えてしまうんだ」
「は?いや、お前…そんなのひとつしか」
「分かるのか」
「やっぱ言わない。自分で考えろ」
「つれないな」
「お前たちなら大丈夫だろ。なんかそんな気がするわ」
当真は教えてくれなかったけどその言葉は嬉しかった。
◆
「みょうじさんお願い!この通り!」
「そんな!顔上げてください」
「頼む!俺にはみょうじさんの力が必要なんだ!」
「分かりました」
「ほんと!?」
「はい。そんな風に言っていただいて嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします」
「やった!ありがとう!明日から早速よろしくお願いするよ」
「はい」
みょうじに頭まで下げていた隊長は嬉しそうにスキップをして去っていった。
それにしてもみょうじはまた頼みごとを引き受けたようだ。
「本気か」
「あ、穂刈見てたの?」
「本気なのかあの部隊に入るって」
「本気だよ。隊長さんどうしてもA級に上がりたいんだって。私、東さんに戦略教わってたでしょ?それで力貸してくれって頼まれて」
「反対だ俺は」
「穂刈…どうして」
「下心満載だろあんなの」
「ないよそんなの」
「あるな」
「ないってば!どうしたのそんなこと言うなんてらしくないよ」
「どうしてだろうな自分でも分からないな」
「もうなによそれ…」
みょうじはガクッと肩を落とした。
「とにかくそういうのはないからね。あの隊長さんは市民と仲間のことで頭がいっぱいなちょっと暑苦しい良い人だよ」
「分かったそれは信じる。けどみょうじ、上層部からも声掛けられていただろ」
「うん。どっちもちゃんとやるよ」
「無理だ両立なんて」
「無理じゃない」
「無理だ。できるわけない」
みょうじは俯いてしまった。言い過ぎたか。
「みょうじ…」
「ふっふっふ…」
「みょうじ?」
「穂刈にそんな風に言われると俄然やる気が出てきちゃった」
ニヤリと笑ってみょうじは顔を上げた。そうだみょうじはこういうやつだった。
「私やるよ。もう決めた。穂刈が応援してくれないのは心細いけどやってみせる」
少し不安そうな顔でけれど力強い声でみょうじは言った。
ずるいなみょうじは確信犯か。
俺がそんなみょうじ放っておけるはずないだろ。
ため息をつくとみょうじのまっすぐな目を見つめ返した。
「分かった。応援する。何かあったら俺に言え。いいな」
「うん!穂刈ありがとう」
みょうじの表情がぱっと明るくなった。
何よりも大切なんだみょうじのその笑顔が。