「カゲやめて!喧嘩はダメだって!」

「うるせぇ!離せ!」


一緒に下校していたら柄の悪い奴らに絡まれて最初は我慢していたカゲもついにキレてしまった。

暴れるカゲを羽交い絞めにして抑えた。幼馴染みの私は昔からこうやって喧嘩するカゲを止めていたけどさすがに高校生にもなると力はカゲの方が断然強くて私ではもう抑えられない。


「あ!ゾエくん鋼くん!お願いカゲ止めて!」

「はいはーい」

「みょうじはいつも大変だな」


丁度ゾエくんと鋼くんが通りかかったので助けを求めた。向こうから絡んできたくせにすっかりびびってしまっている不良共を逃がすとカゲは漸く暴れるのをやめた。


「もう!喧嘩しないって約束したじゃない!これ以上ポイント減らされたらマイナスになっちゃうよ!」

「知るかそんなこと。あいつらが悪いんだろが」

「少しは仲間のこと考えなよ!」

「うるせーなお前は小姑か」

「ちょ、カゲ!」


ゾエくんが慌てて制止してくれたけど頭の中でプチンという音がした。


「誰が小姑よ!もう知らないバカ!ハゲ!」

「あ?誰がハゲだ」

「ハゲてしまえ!」

「おい待てコラ!」


カゲを無視して背を向けて走った。


「チッ」

「俺が追いかけるよ。カゲは少し頭冷やせ」



幼馴染みのなまえは昔から何かと俺を気にかける。それを迷惑だと思ったことは一度もない。

けど俺なんかより鋼みたいなやつといるほうがいいんじゃないかと思ったことは何度もある。

今も鋼に慰められてあんなに怒っていたのに笑顔に戻っている。





「…カゲ!」

「…あっ?…なまえか?」

「また屋上でサボってたの?」

「あー…爆睡してた。お前もサボリか」

「違う。もう昼休みだよ。はいお弁当」


いつも適当にコンビニで済ませていたら栄養が偏ると言ってなまえは毎日弁当を作ってくるようになった。


「昨日は言い過ぎてごめんね。今日はカゲの好きなものたくさん入れてきたよ」


どう考えても悪いのは俺だったのに喧嘩すると先に謝ってくる。なまえはいつも相手のことを一番に考える優しいやつだ。


「なあなまえ」

「ん?」

「俺なんかといるより鋼みたいなやつといたほうがいいんじゃねーか」

「なにそれどういう意味」

「鋼みたいな優しくてお前を大事にしてくれるやつといた方が幸せなんじゃねーかって最近思う」

「カゲ…私はお人好しじゃないよ」


なまえは俺に向けていた視線を地面に落とした。


「誰にでも優しくなんてないし親切なんかじゃない。カゲだから世話焼きたくなるし喧嘩して欲しくないし隣にいたいって思うんだよ」

「……なまえ」

「ん?」

「好きだ」


弾かれたように顔を上げたなまえの表情が明るくなった。


「本当…?」

「本当」

「私も、私もカゲが好き!カゲから言ってくれるなんて思わなかった。嬉しい」


自分でも驚いた。自然と好きだと口に出していた。ずっと思っていたけど言えなかったのに。

なまえの手を握ると心が温かくなった。

俺にはなまえしかあり得ない。



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