みょうじなまえ。高校1年生。ボーダーの同期で同じ高校に通っている。大人しい控えめな性格と思っていたが明るくて表情がコロコロ変わる。ひとりで勝手に慌ててその時はあまり人の話を聞かない。加古とは幼馴染らしくみょうじを溺愛している加古は学校でも本部でも一緒にいるところをよく見かける。みょうじをチラリと見ると加古にものすごく睨まれる。以上が俺が知るみょうじだ。
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「おーい二宮。客だぞ」
1限目が終わり次の授業の予習でもしようと準備をしているとまだ名前を覚えていないクラスメイトに呼ばれた。顔を上げるとそいつは親指でクイッと教室の後ろのドアを差した。
「みょうじさんだってさ」
客だと?俺は忙し…なにっみょうじだとっ!一瞬で立ち上がりみょうじの元へ向かった。
「どうしたみょうじ」
「あ、あのね忙しいところごめんね…」
「いや休み時間だ。特に用事はない」
「そっかよかった」
みょうじは安堵したようにふわっと笑った。とてもかわいい。
「あの二宮くん、英語の辞書って持ってないかな…」
「英語の辞書だなちょっと待っていろ」
ロッカーから辞書を持って来てみょうじに手渡した。
「ありがとう二宮くん!望ちゃん今日は英語なくて他に頼れる人もいなくてどうしようと思ってたの。本当に助かります!」
やはり先に加古のところへ行ったのかと内心舌打ちした。
「高校で新しいのを買おうと思ってたんだけどまだ買えてなくて…」
「そうか」
せっかく話せたのにもうチャイムが鳴ってしまった。
「あ、じゃあ借りるね、ありがとう!」
みょうじは手を振りながら教室に戻って行った。
◆
「二宮くーん」
授業が終わり教科書をしまっていると遠慮がちに名前を呼ぶ声がした。後ろのドアを見るとやはりみょうじだった。小さく手を振っている。とてもかわいい。みょうじの元に向かうと頭を下げながら辞書を差し出してきた。
「ありがとうございました。とても助かりました」
「気にするな。何かあったら俺に言え」
しまった俺は何を言っているんだ。
「二宮くん優しいね」
みょうじは特に気にした様子もなくニコニコしていた。少しは気にして欲しいものだ。
「二宮くんその辞書どこで買ったの?私も同じのにしようかな」
「これは一駅向こうの大きい本屋だ」
「そっか行ってみようかな。今日ちょうど非番だし」
「よければ案内するが」
「いいの?ありがとう!じゃ放課後また来るね!」
教室に戻るみょうじの背を見送りながらバクバクうるさい心臓を落ち着かせるために深呼吸をした。なんだかとんでもないことになった。
◆
全ての授業が終わり担任が教室をあとにすると生徒たちも疎らに教室を出て行った。
「二宮ーまたさっきの女子来てるぞ」
後ろのドアを見るとみょうじがひらひら手を振っていた。
「ああ、何度も悪いな」
「気にすんな。てかあの子なに?彼女?」
「まあそういったところだ」
立ち上がりみょうじの元へ向かうとまじで!いいなーと言う声が聞こえた。かっこつけてあんなこと言ったが全くそんな関係ではない。
「待たせたな」
「ううん。では案内よろしくお願いします」
「加古はいないのか」
「望ちゃん?うん。任務があるから。あ、二宮くんによろしく伝えてって言ってたよ。どういう意味なのかな」
腹黒い笑みを浮かべている加古を想像して頭痛がした。
二人で電車に揺られながらいろんな話をした。前まであまり関わることなどなかったのにこうして話していると話しやすくみょうじの隣は不思議と落ち着いた。本屋に着き目的の物も無事に買えみょうじを家まで送った。
「今日はありがとう二宮くん」
「気にするな。みょうじ…」
「どうしたの?」
「学校で言ったことだが」
「学校?」
「何かあったら俺に言えというやつだ。あれ本気だからな」
みょうじは少し驚いた顔をしたあと頷いた。
「ありがとう。じゃあまた明日ね」
手を振るとみょうじは自宅に入って行った。
俺はみょうじのことが好きだと確信した。