授業開始のチャイムが鳴る。

教科担当の先生が教室に入ってくる。

日直が号令をかける。

先生が出席を取り始める。

よくある学校の日常風景だ。

そしてその声は大抵同じ所で止まってしまう。


「当真勇」

「当真いないのかー?」


これもいつも通りのこと。

先生はまたかと言いながら次の生徒の名前を呼ぶ。はずが…。


「村上、当真探してきてくれ」


これもいつも通りの…あれ、いつもと違うことが起こってしまった。クラスもなんとなくざわっとなる。

先生本気ですか。


「悪いな村上」

「いえ…」


申し訳なさそうに頼まれたら断れない。


探してきてと言われてもどこにいるのかさっぱり分からない。

とりあえず屋上へ行ってみることにした。当真くんの見た目的にサボるなら屋上だろうというものすごい偏見で屋上へ向かった。


授業中なので廊下は静まり返っていてなんだか新鮮な気分だった。

屋上へ続く階段を上り錆びていてやたらと重いドアを開けると風が頬を撫でた。天気がよくて気持ちいい。

さて当真くんはいるだろうか。辺りを見回すとフェンスにもたれかかって座っている人物を発見した。屋上にいるという感が的中した。


「当真くん」


声をかけるが反応がない。寝ているのだろうか。前に座ってもう一度声をかけてみる。


「当真くん起きて。授業始まってる」


当真くんは片目だけ開いて私を見た。


「委員長か」


そうだよ。私はクラス委員長だよ。


「よくここにいるって分かったな」


当真くんはニヤリとした。


「いや、なんとなくイメージ的にここかなって」

「これ見て言っただろ」


目だけで自分の頭を見ると笑った。どうやら当真くんはいい人のようだ。


「珍しいな。わざわざ探しに来るなんて」

「先生に頼まれたから仕方なく」


当真くんは可笑しそうに笑った。何がそんなに面白いのだろう。


「委員長って大人しそうな顔して言いたいことはっきり言うんだな」

「気に障ったなら謝る。ごめん」

「いや別に。話しやすくて俺は好きだぜ」


好きなんて初めて言われた。そういう意味の好きじゃないって分かっているけどちょっとドキッとしてしまった。


「なあ委員長」

「さっきからその呼び方やめてほしい。好きで委員長なんてやっているわけじゃない」

「満場一致で決まっただろ」

「どうして私なの」

「そりゃ見た目だろ」

「やっぱり?」


メガネにおさげがいけなかったか。メガネもおしゃれメガネじゃなくて視力を補うためのものだ。

髪型もアレンジなんて器用なことできない。でも結わないと邪魔だからこれにした。

そりゃ今時この見た目じゃ委員長にされても仕方がないか。


「でも見た目がどうとか当真くんには言われたくなかったな」

「なんか言ったか?」

「なんでもないです」


立ち上がるとスカートについた埃を掃った。


「そろそろ戻ろ。授業終わっちゃう」


ドアへ向かおうとしたら左手が伸びてきて右手首を掴まれた。立っている私に届くなんて腕が長いんだな。


「なまえ」

「は?」


今なんと?


「なんで名前呼び?」

「委員長って呼ぶなって自分で言ったろ」

「言ったけどいきなり名前呼びってどうなの」


まともに会話したの今日が初めてなんですけど。


「知り合いに村上って名字の奴がいるんだよ。ややこしいだろ?」

「あー村上鋼くんだっけ?ボーダーの」


確かに同じ苗字だけど別に間違えることはないと思うんですけど。


「嫌なら委員長って呼ぶ」

「分かったよ。いいよ」


当真くんはニッと笑った。そんなに嬉しいのか。


「なあなまえ」

「なに」


そろそろ戻らないと二人仲良く説教くらうことになる。それだけは勘弁してほしい。


「俺と付き合ってほしい」

「はい?」


なんだって?付き合う?当真くんと私が?付き合うってなんだっけ?


「俺の彼女になって欲しい」


掴まれた手の力が強くなった。


「遊びなら他の人にお願いします」

「俺はこう見えて純情だ。告白なんて生まれて初めてした」

「え?嘘、ははは。あ、ごめん」


思わず笑ってしまった。いや、私もしたこともされたこともないけど。あ、今されたのか。

よく見ると当真くんの耳が赤い。純情というのは本当のようだ。


「でも当真くんの周りいつも女の子でいっぱいでしょ。なにも私じゃなくても」


ちょっとギャルっぽい子が多いけど綺麗な子がいっぱいいた気がする。あれ男子の方が多かったかな。

当真くんはボーダー隊員でA級という精鋭ぞろいの2の部隊に所属していてしかも狙撃手の中では1の実力の持ち主らしい。とにかくモテる要素しかないのだ。


「俺は別に彼女が欲しいから誰彼構わず告ってるわけじゃない。なまえに一目ぼれした。覚えてないかもしれないけど入学式の日…」




『ねぇ。その電車、逆方向だよ』

『え、まじで?あぶねー!サンキュー』


今時この見た目の自分に普通に話しかけてくれるなんて珍しいと思い相手を確認するとこれまた今時珍しいメガネにおさげだった。

ものすごくタイプだった。完全に落ちた。一目惚れした。それがどうやら私だったらしい。


「あーなんとなく覚えてる。あの時のドジな人、当真くんだったんだ。全然知らなかった」

「おう!」


居ても立ってもいられなくて私を探したら同じ1年生だったけどクラスが違ったので接点が何もなくて1年間は何もできなかったらしい。そして2年生になっても接点なしで進展なし。そして3年生になったとき


『荒船ついにやったぞ』

『なにが?』

『例の子と同じクラスになった!』

『例の子って委員長か?』

『そうだ!』


ちなみにこの時の委員長ってのは1年の時、名前が分からないから見た目で当真くんが勝手に付けたあだ名だそうだ。


『今日本当に委員長に推薦されてた!』

『で、話しかけたのか?』

『いや緊張して全然無理だった!』

『相変わらずチキンだな』

『俺どうしたらいいと思う?』

『どうって、ない頭で考えても仕方ないだろ。さっさと告白してこい』


と言われたのでとりあえず自分なりに告白の方法を屋上で考えていたら目の前にいきなり私が現れたらしい。

もうチャンスは今しかない!そして現在に至る。

以上、当真くんの回想終わり。



「ということだ。だから俺はなまえがいい」


なにこれ少女漫画?なんて言葉を返せばいいのだろう。

当真くんの真剣な眼差しにドキドキする。

昨日までの平凡な日常が嘘のように今日は変わったことばかり起こる。

返事は?と急かしてくる当真くんにとりあえず思っていることを全部言おうと思った。


「当真くん。私さ、高校生になってから今のところ楽しいと思うこと一つもないんだけど当真くんの隣にいたら何か変わるかな?」


当真くんはニッと笑うと頷いた。


「退屈はしないと思うぜ」

「そっか。じゃあよろしく」


握られていた手を離されたのでその手を当真くんに差し出した。

当真くんも右手を差し出してきたので、ぎゅっと握手した。大きな手が温かくてなんだかいいなと思った。

村上なまえ。同じクラスの当真勇くんと付き合うことになりました。




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