「ねえねえ出水くん」
「んー?」
弁当のエビフライを頬張っていると女子たちが声をかけてきた。
「出水くんって太刀川隊だよね?」
「太刀川さんってどんな人なの?」
「一言で言うと戦闘面以外はダメな人」
えー嘘でしょうと女子たちが騒ぐ。残念ながら嘘じゃないんだこれが。
「私チラッと見たことあるけどかっこよかったよー。確かボーダーでいちばん強いんだよね」
「まあな」
あんな人に助けられたら絶対に惚れちゃうと騒ぎ出した女子たちの幻想をぶち壊しては酷だと思いそこで話を終わらせた。
「うぃーす」
あいさつをしながら作戦室のドアを開けて中に入ると理解しがたい光景が目の前に広がっていた。
「な?いいだろなまえ」
「良くない」
我が隊の隊長様が両膝をついてなまえさんの腰に巻きつき縋りついていた。
ピンと背筋を伸ばしてやたら真っ直ぐに立っているなまえさんがまたシュールで吹き出しそうになった。なんてザマだ。
「出水くんおつかれさま」
「おつかれさまです」
普通にあいさつしてくるなまえさんにとりあえず状況を説明してもらいたい。
「なまえ聞いてるのか」
「聞いてるってば」
「なあ頼むよー」
「ありえないでしょ」
「あのー。何してるんすか」
「それがね…」
なまえさんが呆れた顔で俺を見てくる。
「なまえー結婚してくれよー」
「は?」
「ね?おかしいでしょ」
なまえさんはため息をついて太刀川さんを見下ろした。
「おかしくない!俺達とっくに結婚できる年齢だろ」
「そうね。お互い20歳だしね」
「だろ?」
「だろ?じゃない。なんであんたと結婚しなくちゃいけないの」
「なまえが好きだから」
「初めて聞いたわそんなこと」
まじか太刀川さんどうした。
「あんた寝ぼけてるの?」
「起きてる!昨日、あ、今日か?夢になまえが出てきた。で起きたらなんかこうぶわっと好きだ結婚したいって思った」
「意味が分からない。やっぱり寝ぼけてるじゃない」
「前から好きだったのは本当だ」
「分かったから。それは信じるから。だからっていきなり結婚って。普通は付き合うのが先でしょ」
「どうせ結婚するんだからそんな段階不要だろ?」
「その自信はなんなの?」
「なあ俺の為に毎日餅を焼いてくれ」
「何それ。プロポーズのつもり?」
どう考えても場違いなので出て行こうとしたけど面白すぎる二人のやりとりにこの場を離れられない。
「俺は本気だからな!」
「あー分かった!分かったから離して。私そろそろ防衛任務に行かないと」
「返事を聞くまで離さない」
「考えとく。返事はいつかするわ」
なまえさんは太刀川さんを引き離すとスタスタとドアに向かった。
「いつかっていつ!?」
「いつかしら。明日かもしれないし10年後かもしれない」
「そんなに待てない!!」
作戦室を出て行ったなまえさんの後を追って太刀川さんも出て行った。
女子たちこれが太刀川慶という人だ。