「穂刈先輩。今そこの廊下で聞こえたんですけどみょうじさん合コンに行くらしいですよ」
「なに!?」
半崎からそれを聞くや否や作戦室を飛び出した。女子たちが集まる中にみょうじの姿があった。
「穂刈先輩どうしたんですか」
小佐野が俺に気がつくとみょうじもこっちを見た。
「お前、合コン行くんだって?」
「そうだけどそれがなに」
みょうじは不機嫌そう返事した。
「お前なんかが行っても恥掻くだけだ。やめとけ」
「はあ!?そんなことわざわざ言いに来たの!?余計なお世話よ!あんた本当に最悪!」
みょうじはブチ切れるとそのままどこかへ行ってしまった。残された俺は女子たちに冷たい目で見られて大変気まずかった。
「あ、おかえりーどうでした。ちゃんと引き止められました?」
「またやっちまった」
あーあと半崎はため息をついた。
俺はみょうじが好きだと自覚してしまってからいつもこうだ。
みょうじが告白されたとか合コンに行くとかそういう類の噂を耳にしたときはなんとか引き止めようとした。
その度に思ってもいない事を口走ってしまいいつもみょうじを怒らせていた。なぜ素直になれないのだろうか。
みょうじに彼氏ができるなんて考えただけでも頭がどうかしてしまいそうだと言うのに。
「もう、いつもみたいに『ごめんねヾ(_ _*)ハンセイ・・・』とかメールしてさっさと謝ってしまえばいいじゃないですか。あ、ついでに告白もメールでしちゃえばどうです?そっちの方が素直になれるでしょ」
「知らん。みょうじのアドレス」
「え…」
このボーダーの中で誰よりもみょうじとの付き合いが長いのに誰よりもみょうじとの距離が遠いのは間違いなく俺だろう。半崎は顔を引きつらせてもう何も言わなくなった。
◆
みょうじには悪いことをした。許してもらえるまでひたすら謝り続けようと思ったが学校で会っても本部で会ってもガン無視され続けた。
最終手段で今、みょうじの自宅前まで来ている。自分でもかなりうざいと思ったがこうするしか話す方法がない。俺はストーカーか。
家に灯りが点いていないので誰もいないようだ。少しすると向こうからみょうじが歩いてきた。今までのことを謝って今日こそは素直になる。
俺に気がついたみょうじはものすごく不機嫌オーラを醸し出した。そして俺をスルーして家に入ろうとした。慌てて呼び止めると振り返ってくれた。
「なに」
声が最高に冷たい心が折れそうだ。まあ俺のせいだがな。
「この前の合コン行ったのか」
「行ってない」
内心ほっとした。すでに彼氏でもいたら一生立ち直れない自信がある。
「あんなこと言われて行けるはずないでしょ」
その時のことを思い出したのか眉間に皺が寄った。
「あの時は悪かった…」
謝罪するとみょうじは俺をじっと見てから視線を逸らした。
「もういいよ。話はそれだけ?じゃあね」
「ちょっ待て待て!」
「なにっ」
そんなすぐに帰ろうとするとかどんだけ俺のこと嫌いなんだよ。腕を掴むと一瞬驚いた顔をしたがすぐに振りほどこうとした。
「話がある」
「なによ」
一応聞いてくれるらしく大人しくなった。
「今までのこと謝る。悪かった。本当にごめん」
「いいよ謝らなくて。本当に思ってたんでしょ」
「は?」
「全部本音なんでしょ。私が告白されたときは確かお前みたいなブスにはつり合わないだっけ?この前は恥掻くだけだって言ったよね。穂刈は思ったこと口に出しただけなんでしょ」
みょうじは俺の方なんて全然見ずに俯いたままそう言った。
「分かってるよ。自分がかわいくないってことくらい」
「おい待て」
「だから告白されて勘違いでも喜んだっていいじゃない。他のかわいい子たちの中で場違いなのも知ってる。でも合コンくらい行っても罰は当たらないでしょ。それなのにどうしていちいち嫌味言われなきゃいけないの?そんなに私が嫌いなの?私だって傷つくんだから!!」
みょうじは腕を振りほどいてドアを開けると中に入ろうとした。閉まる直前に足をすべり込ませ閉まりそうになったドアをこじ開けた。
「なにしてるの手離して」
「お前こそ閉めるな手離せ」
みょうじは両手でドアノブを持ち力づくで閉めようとした。俺は半身をなんとかドアの隙間に入れ無理やり中に入ろうとした。ドアがミシミシいって壊れそうだ。
「どっか行って!顔も見たくない!」
そう言われ一瞬怯んだ。
「悪いみょうじ」
「えっきゃっ」
申し訳ないと思いながらみょうじを突き飛ばした。ドアノブを握っていた手が離れ後ろに転んだ。ほんとに悪い。怪我してませんように。俺は中に入るとドアを閉めて鍵を掛けた。
「いった…なにする、きゃっ」
尻餅をついているみょうじを押し倒して顔の横に手をつき覆い被さるとみょうじは目を丸くした。
「ちょ、やだ、退いて」
暴れるみょうじの手を床に縫い付けると大人しくなった。
というか怯えているなこれは本当に悪い。
「俺が全部悪かった。みょうじを傷つけた。素直になれなかったから」
「穂刈…?」
「いつも思っていることと違うことばかり言ってた。告白なんて断って欲しかった。合コンなんて絶対に行って欲しくなかった。みょうじに彼氏ができるなんて考えただけで頭がおかしくなりそうだ」
「どうして…」
「みょうじが好きだから」
見下ろしながら告げるとみょうじはぽろぽろと涙を流した。
「みょうじ!?泣くほど嫌だったか」
「違う。私ずっと嫌われてると思ってて…」
みょうじの涙を指で拭うと手を重ねてきた。いつまでもこの体勢でいるわけにもいかないので手を取って身体を起こした。
「好きって本当…?」
「本当だ」
「私も好き。もっと早く言えばよかった。お互い天邪鬼だね」
「そうだな」
みょうじは首に抱きついてきた。
「ねえ、キスして」
最初は触れるだけだったのに段々深くなっていき頭がぼんやりする。やばいキスだけで気持ち良くなってきた。服に手をすべり込ませるとバシッと叩かれた。
「ここ玄関」
「あーそうだった。家の人は?」
「仕事。いたらやばいねこの状態。殴られるだけじゃすまないね」
「いないのか両親…そうかそうか」
靴を脱いでみょうじを抱き上げた。
「ちょっとなにしてるの下ろして!」
「2階かなまえの部屋」
「そうだけど…って今、なまえって…」
「あとでいっぱい呼んでやる」
「へっ?なっなにする気…」
「なにだろうなー?」
ニヤニヤしている俺の頬をバシバシ叩いてきたがそんなことお構いなしに2階へ続く階段を昇った。
◆
「はい。あーん」
「本当にするのか」
「なんでもするって言ったでしょ?ほら。あーん」
仕方なく口を開けると卵焼きを押し込まれた。
「うまい」
「本当?やったー!」
ここは本部のラウンジだ。なまえは手作り弁当を広げて俺に食べさせている。周りからの好奇心とかリア充爆発しろ的な視線を感じてつらい。なぜこんなことになったのかと言うと。
昨日あのあとなまえと初めてをいたしたわけだが抵抗はしなかったものの多少強引にことを進めてしまったため終わった後、なまえは恥ずかしさでシーツにくるまりながら背を向けてしまった。
「悪かった。なまえ」
「あほかり。嫌い。もう知らない」
「嫌いは傷つく」
「嘘、好き。でもひどい」
「悪かった。なまえの言うことなんでもひとつ聞くから許してくれ」
「本当…?」
「お、おう」
なまえはゆらりと振り返った。瞳孔が開いている。正直恐い。
そして現在に至る。
手作り弁当を彼氏にあーんして食べさせるのが夢だったとかいうなまえはかわいくて大変いいと思うが実際やるほうはかなり恥ずかしいなこれ。
そしてラウンジを選んだのは絶対にわざとだ。だがなまえが楽しそうなので耐えてやるこれぐらい。
「あいつらやっと付き合いだしたのか」
「そうみたいっスねー。もう見ていてじれったくて仕方がなかったけどよかったですね」
荒船と半崎が遠くから二人を見てほのぼのとしていた。
「楽しいかなまえ」
「うん!付き合ってくれてありがとう。篤、大好き!」
「俺も好きだぞなまえ」
「……やっぱりちょっとムカつくな」
「そうっスね」
二人から爆ぜろという視線を向けられていることなど露知らずなまえと穂刈は幸せそうに笑うのだった。