やってしまった。階段から落ちた。しかも残り2、3段で。カッコ悪すぎる。
「なまえさん大丈夫ですか!?」
近くにいた木虎ちゃんと遥ちゃんが駆けつけてくれた。
「ごめんね、大丈夫」
「医務室行きましょう。立てますか?」
遥ちゃんが差し出してくれた手を握り立ち上がろうとしたら右足に激痛が走った。
「痛っ」
「捻ったのかもしれませんね。人を呼んできます」
木虎ちゃんはどんなときでも冷静だな…感心してる場合じゃないか。
「本当に大丈夫だから」
こんな座り込みながら言っても説得力ないかな。
「どうした」
聞き覚えのある声に顔を上げるとやっぱり穂刈だった。穂刈の顔を見るとなぜかほっとしてしまう。
「あ、穂刈先輩。なまえさん足を怪我されたみたいで手を貸していただけませんか」
穂刈は私の前に来て手を差し出してくれた。ありがたく掴もうとしたらその手が膝裏に触れた。えっと声を出す前に身体が宙に浮いた。
「ちょっちょっと!?なにしてるの!」
穂刈はなんと私を横抱き…つまりお姫様抱っこをした。木虎ちゃんと遥ちゃんがきゃあと可愛らしく頬を染めて黄色い声を上げているけれど実際される側はかなり恥ずかしい。
「お、下ろして!自分で歩けるから!」
「早いだろ。こっちの方が」
「そういう問題じゃなくて!」
どれだけ言っても結局下ろしてもらえず穂刈はスタスタ歩き出した。
「ごめんね…重いでしょ」
「全然」
あ、あれ…なんだかおかしいドキドキしてる。え、穂刈に?いやいや気のせいだ。気のせい。廊下で会う人みんなに注目されて恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
医務室で手当てしてもらいなんとか歩けるようになった。先生にお礼を言って廊下に出ると穂刈が待っていてくれた。
「あ…さっきはありがとう」
「気にするな。大丈夫か」
「うん。捻挫だって。固定してもらったからもう歩けるよ」
そう言った途端に早速つまずいた。
「なにやってんだ」
「ごっごめん」
転んだと思ったら穂刈が抱き止めてくれた。
倒れ込んだ胸板とか支えてくれる腕が程よく鍛えられていてドキドキしてしまった。
見上げると思いのほか顔が近くて思わず逸らしてしまった。
さっきも思ったけど穂刈ってこんなに逞しかったっけ。
こんなにかっこよかったっけ…。
自分でも顔が赤くなっていくのが分かった。
どうしよう…気のせいじゃない。
私、穂刈が好きだ。
◆
みょうじが足を捻挫した。階段の下でうずくまっていたから多分落ちたのだろう。大怪我じゃなくてよかったが放っておけなかった。
手当てのあと早速つまずいたりなぜか顔が赤かったり。案外ドジなのか。
「今日はもう終わりか」
「え、あ、うん」
「じゃあ帰るぞ。送ってく」
「えっいいよ!いいよ!大丈夫だから」
「全然大丈夫じゃないな。みょうじの大丈夫は」
「うっ」
「ほら行くぞ」
「うん…」
荷物を持ってきてボーダー本部をあとにした。
「穂刈とこうやって話すの久しぶりだね」
「そうだな。言われてみれば」
高校は同じだがクラスは3年間別々だった。お互い付き合いもあるし特別会う間柄でもない。けど久しぶりに話しても不思議とみょうじとは自然体でいられた。
他愛ない話をして時々会話が途切れても沈黙が苦ではなかった。
「穂刈は優しいね」
「俺が?」
「うん。医務室まで運んでくれて、待っていてくれて、こうやって送ってくれるし。中学の時に最初に声かけてくれたのも穂刈だった」
「懐かしいな」
「あの時、穂刈がいてくれなかったら今の私はないよ」
「大袈裟だ。みょうじは」
「そんなことないよ。本当にそう思ってる。ありがとう穂刈」
そう言って笑ったみょうじは夕日のオレンジに染められて綺麗で見惚れてしまった。
「あ、もうそこだからここまででいいよ」
「………」
「穂刈?」
「家の前まで送る」
「え?うん…ありがとう」
みょうじは不思議そうに首を傾げた。
1分でも1秒でも…少しでも長く一緒にいたいと思ってしまった。