穂刈と初めて話したのは中学1年の時だった。
人見知りでただでさえ少なかった友達がみんな三門市を離れてしまい中学で独りぼっちになってしまった。
自分から話しかける勇気なんてなくて周りからはたぶん暗い子だと思われている。さらに席替えで窓際の後ろから2番目という目立たない席になってしまった。
もはやクラスメイトに存在すら認識されていないのかもしれない。こんな有り様でこれから先やっていけるのだろうか。モヤモヤしたものが心の底にあって不安でいっぱいだった。
そんな私に止めを刺す言葉が教師から発せられた。
「この課題は誰かとペアになってやるように」
終わった…。
ついにこの日が来てしまった。中学生にもなってペアとかなに?嫌がらせでしかない。
周りを見るともうすでに二人組が出来始めていた。
早っ!まだ1学期なのにみんなもう友達ができてるの?どうしよう…誰か1人の人は…いなさそう…。仕方がない1人でやるか。
「おい」
課題を見ると1人でもできないことはなさそうだった。先生に何か言われるかもしれないけどぼっちであることを力説するしかない。
「おーい」
さっきから誰かの声がするけど気のせいかな。クラスで私を呼ぶ人なんていないはずだ。よし、早速はじめよう…としたらいきなり後ろから肩を捕まれた。
「おい、無視か」
え?え?なに、私?恐る恐る振り返るとひっと声が出そうになった。目付きが悪いトサカ頭がこっちを見ていた。
えっ…誰だっけ?あ、後ろの席の確か…穂刈くんだ。え?私なにかした?
「え、えっと…なにかご用でしょうか…」
「みょうじひとりか?なら一緒にやらないか、俺と」
なんだか不思議な話し方だったけどその言葉に心の底にあったモヤモヤが霧が晴れるようになくなった。
そのあと何だかんだで穂刈とよく話すようになった。私が極度の人見知りだと言うとボーダーに入れば嫌でもそんなの克服できるから入れと言われた。私の人見知りを心配していた両親は快く了承してくれた。
ボーダーに入隊しオペレーターになると穂刈の言う通り人見知りなんてすぐに克服できた。同世代の子もたくさんいるので友達もできた。クラスメイトともいつのまにか話せるようになり不安でいっぱいだった毎日が楽しいものになっていった。
全部穂刈のおかげだ。
◆
みょうじを初めて認識したのは中学1年の時だった。
…寝てたないつのまにか。
授業中眠ってしまっていた俺は顔を上げると授業中なのにざわついていて不思議に思った。教室をぐるりと見渡しなんとなく理解した。
あれかペアになってなんたら〜というやつか。
中学生にもなって面倒だなと思ったが課題なので仕方がない。誰かまだ組んでないやつ…
ふと前を見ると前席の誰だっけ…?そうだ確かみょうじだ。みょうじがきょろきょろと辺りを見渡していた。俺と同じでまだペアを見つけられていないらしい。
「おい」
みょうじは課題を見つめている。
「おーい」
全然反応がない。もしかして無視か?無視しているのか?
「おい、無視か」
肩を掴むとビクッと跳ねた。恐る恐る振り返ったみょうじはやたら青白い顔をしている。大丈夫か?
「え、えっと…なにかご用でしょうか…」
なぜ敬語?
「みょうじひとりか?なら一緒にやらないか、俺と」
普通のことを言っただけなのにみょうじの表情がぱっと明るくなった。
不覚にもかわいいと思ってしまった。