「あ!」

「あ…」


三門市の図書館に行ったら珍しい人物に遭遇した。


「太刀川もこんなとこ来るんだな」

「レポートの資料探し。これ提出しないと単位取れないんで」


最近学業の方もやる気満々だと噂になっていたが本当だったのか。


「どうしたんだ大学なんてほとんど行ってなかっただろ。急に力入れ出して」

「なまえさんのおかげ」

「なまえ?」

「俺の大学生活の話が新鮮で好きだって言ってくれたから頑張って話のネタ作ろうと思って」

「……」

「東さん目が恐いって!安心してよもうなまえさんに言い寄ったりしないから」

「……」

「うわっ全然信用してない」

「信用したいが太刀川のおかげでなまえとの関係が真剣に終わったかと思ったことがあったからな」

「その節は大変失礼いたしました…」


太刀川は引きつった笑みを浮かべながら頭を下げた。


「もういいよ。おかげでなまえと前より分かり合えたからな」

「あー羨ましい!」


フッと笑うと太刀川は悔しそうに笑った。座って本を開くと太刀川が向かいに座った。何故そこに座る。


「東さんなまえさんにちゃんと好きって言ってる?」

「なんだ急に…」


この手の話は苦手だ。しかも男二人が図書館でする話なのか…。


「ちゃんと言ってあげないとなまえさん不安になるよ」

「余計なお世話だよ」


そういえば最近言ってない気がする。最後に言ったのは俺達の中が拗れまくっていた時だ。そうなまえが風邪を引いていた時…あれ?もしかしてあれが最初で最後か?


「言わなくても伝わってるなんて思ってません?」

「お前、随分俺達に干渉してくるな」

「俺はなまえさんとは結ばれなかったけど一生、なまえさんの一番の理解者で味方でいるつもりです!」

「いい加減訴えるぞ」


なんで!?と叫んでいる太刀川を放置した。

確かに俺は言葉が足りないかもしれない。けれどこの年になると好きだの愛しているだのなかなか恥ずかしくて言えないのが普通ではないだろうか…。


「そういえばさっき本部に顔出してきたけど廊下で偶然会ったなまえさんなんだかいい香りしてたなー」

「お前なあ…」

「いやいや!別に嗅いだ訳じゃないって!なんかこうふわっと香ってきてなまえさんに聞いたら、素敵な香水貰ったから付けてみたって。てっきり東さんからだと思ってたけど…」

「違うな」


俺は至って冷静を装いながら携帯で調べものをした。

【香水を異性に贈ると「相手を独占したい」という意味があるそうです】



「……」

「東さん?」

「いや、なんでもない。ちょっと用事思い出した。じゃあな」


不思議そうな顔をしている太刀川に別れを告げると図書館をあとにし足早に本部へと向かった。



会議室で片づけをしているというなまえの元へ向かうと突然現れた俺に驚いたなまえをとりあえず壁際まで追いつめて首筋に顔を埋めた。


「わっ!東さん!?」

「ほんとだいい香りがする」

「へ…?ひゃっ!東さっ…!くっくすぐったいっ」


離れようとするなまえの首筋に吸い付くとビクリと体が跳ねた。


「あっ東さん…?」

「香水…」

「え?」

「誰に貰った」

「んっ…なんで…?」

「男か?」

「ち、違いますっ…やだっ東さんっ」


腰に手を這わせると肩を押し返してきた。なまえは身をよじりながら答えた。


「お、小佐野ちゃんですっ」


小佐野…確か諏訪隊のオペレーターだ。首筋から顔を離してなまえを見ると真っ赤な顔で涙目になっていた。体を離すと今度はなまえから抱き付いてきた。


「東さん何か怒ってますか…?」

「悪い…嫉妬だ。恐かったか」


首を振ると腰に巻き付く腕の力が強くなった。


「昔のモデル友達からサンプルたくさん貰ったからって私にもくれたんです」

「そうか…変な勘違いして悪かった」

「珍しいですね東さんが早とちりするなんて」

「恥ずかしいから忘れてくれ」

「嫌です忘れません。東さんが嫉妬してくれたなんて嬉しい」


胸に顔を埋めながらクスクス笑った。髪を梳くように撫でると頭をぐりぐりと押し付けて来た。


「こらこら何してる」

「うー…東さんが不足してるので充電です」


なんだこのかわいい生き物は…。なまえがどんどん幼くなっていく気がするが大丈夫か。

そんなことを考えているとなまえは顔を上げた。


「東さん今日お家行っていいですか…?」

「もちろん構わないけど帰れるのか?」

「う…帰ります!帰ってみせます!」

「相変わらず忙しそうだな」


苦笑するとなまえは悲しそうに眉を下げた。


「東さん…私、寂しいです。最近また会えなくて…」

「しんどい?」

「しんどくないです!会えなくて寂しいと思うのは好きだからです」


その通りだがはっきり言われると照れるな。


「なあなまえ」

「はい?」

「一緒に暮らさないか」

「え!?」

「嫌か?」

「私でいいんですか…?」

「当たり前だろ」

「でも私あまり家に帰れないし…」

「分かってる。でも一緒に住んだら今よりずっと会える機会が増えるだろ」

「嬉しい…」


ほんのり染まった頬を撫でるとくすぐったそうに笑った。


「俺も不安で仕方がないからな」

「不安?」

「そばにいないと悪い虫がつく」

「平気です。私は東さんしか見えてませんから!」

「それはよかった」


後頭部に手を添えキスするとすぐに離れた。


「なまえ、好きだ。愛してる」

「私も…愛しています」

「これからもずっとそばに居てくれ」

「はい!」

頷いたなまえを強く抱きしめた。



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