久しぶりの本部になんだか緊張してしまう。トリガーをかざして中に入ると帰ってこられたと思った。本当は数日しか経っていないのに数年ぶりに戻ってきたような不思議な感覚がした。
やっぱりここは落ち着く。私の居場所なんだ。
感慨にふけって大きく深呼吸をした。
まずはやっぱり上司の所にお詫びに行かないと…。
まんまるいフォルムを頭に浮かべて少し憂鬱になった。もしかしたらクビになるかも…。クビになってもおかしくない。
鬼怒田室長の元へ向かい謝罪の後、家庭の事情をすべて説明した。東さんのところにいたことは伏せておいた。東さんに余計な迷惑をかけるわけにはいかない。
鬼怒田室長は私の話に理解を示してくれた。ボーダー内には家庭の事情が複雑な人が結構いるのでそういった点は寛大だそうだ。
そういうことはもっと早く言わんか馬鹿者!と長い説教が始まった。けれどとても心配してくれていた。
「無断で休んだ分、存分に働いてもらうからな!」
「クビじゃないんですね…よかった…」
「クビ?そんなことはせん。お前に辞められてはこっちが困るわ。まあ何事もなくてよかったわい」
「たぬき室長…」
「き・ぬ・た だ馬鹿者!」
相変わらず痛くないチョップを食らったあとお辞儀をして退室した。
ふー…クビにならなくてよかった…。必要としてもらえてよかった。
嬉しさが込み上げて胸の前で手を握った。
「なまえ!?」
「はっはい!」
名前を呼ばれて思わず返事をしてしまった。響子さんがパタパタとこちらへ駆けてきた。
「なまえ!心配してたのよ今までどこにいたの!」
「え、ええっと…」
響子さんになら本当のことを話してもきっと大丈夫だろう東さんにも迷惑はかからないはず。そう思ったけれど周囲からの視線が痛かった。
『あ、みょうじさんだ』
『ほんとだ。あの人、行方不明だったんだろ?』
『噂によると嫉妬深い彼氏にずっと家に閉じ込められていたらしいよ』
ヒソヒソと話す声が聞こえる。なんだか変な噂まで立っている…。
「場所を変えましょ」
苦笑していると響子さんが手を引いて連れ出してくれた。
「そう…ずっとひとりで頑張って来たのね。でもこれからはもっと年上の人を頼ってもいいのよ。私じゃ頼りなかったら忍田本部長とか…」
「そんなことないです!響子さんは頼れるお姉さんです!今まで年上の知り合いなんていなかったので頼り方が分からなくて…でもこれからは響子さんになんでも相談しちゃいます!」
覚悟してくださいねと言うと響子さんは目を細めて微笑んでくれた。
「それはそうと…なまえ…」
「え?」
さっきまでの優しいお姉さんオーラはどこかへ消えてしまった。
「あなたずっと東君の所にいたの!?」
「え、あ、はい」
「はい、じゃないでしょ!」
「ひえっ!」
響子さんは立ち上がり私の両肩をガッと掴んだ。痛い!イスが後ろに転がっている。
「いくら東君だからって男の人のところにずっといたなんて警戒心がなさすぎるわよ!なにかあっても文句言えないわよ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「そもそもなまえはいつもぽわぽわして」
それからどれだけ時間が経ったか分からないけれどようやく響子さんから解放された。
「恐かった…誰よりも恐かった…」
「みょうじ」
放心状態で立ち尽くしているとまた名前を呼ばれた。ハッ!この声は…。
「東さん!」
「案外早く再会できたな」
「東さんっ!」
「なんだどうした」
「恐かった!恐かったです!」
「何が?」
ぽかんとしている東さんに先ほど我が身に起こった恐ろしい出来事を話すと盛大に笑われた。
「笑い事じゃないですよ!」
拗ねる私に相変わらずなでなで攻撃をしてくる東さんはずるい人だ。
いろいろあったけどまた戻ってこられてよかった…。
ツボに入ったのか未だに笑いながら頭をわしゃわしゃしてくる東さんを見上げながらそう思った。