「東さん私、荷物まとめてきます」
「もしかして今から本部に戻るのか?」
「はい」
「もういい時間だ。明日にしたほうがいい」
「でも…」
みょうじはここにいることが俺に迷惑をかけていると思い込んでいるから戸惑っている。
「こんな時間に行かせら俺が怒られてしまうよ」
「そ、それはダメです!…ではお言葉に甘えて」
ずるい言い方だけどこれが一番、みょうじには効果的だ。
「風間に恨まれるな」
「どうしてですか?」
風間は俺がみょうじになにかするんじゃないかとずっと敵視していた。みょうじに早く出て行くように言っていたのもそのせいだが本人はまるで気づいていないようだ。
「みょうじは鈍いなー」
「??」
首を傾げるみょうじの頭をぐりぐり撫でると困惑した顔をした。警戒心が無さすぎる。この先、大丈夫なのだろうか。
「俺のせいか…?」
「え?」
なんでもないと言うとまた首を傾げた。
「東さん!おやすみなさい」
風呂やらなんやらを済ませてあいさつに来てくれた。
「ああ、おやすみ」
答えると笑顔で部屋に入って行った。これでおやすみも最後か。
ぼんやりとそんなことを考えてしまった。
◆
「東さん。本当にお世話になりました」
みょうじは深々と頭を下げた。
「このご恩一生忘れません。いつか必ずお返しします」
「大袈裟だな」
「いいえ!今、私が生きているのは東さんのおかげです!」
きらきらした目でそう言われると思わず頷いてしまう。
みょうじと過ごして気がついたことがある。それはどんなことがあってもこの目が濁ることがない。まっすぐできらきらしていて吸い込まれそうだと思った。
「お別れは寂しいですが、私はそろそろ失礼します」
「だから大袈裟だって。すぐ本部で会えるよ」
「う〜ん…でも私あまり東さんと遭遇しない気がします」
「言われてみればそうだな。俺は戦闘員でみょうじはエンジニアだからな」
「東さんと会えないのは嫌です。寂しいです」
これは計算で言っているのか…いやこの子のはどう見ても天然だ。
「俺もだよ」
ほら赤くなった。
「じゃ、じゃあ行きます。東さん本当にありがとうございました!」
もう一度お辞儀すると手を振って行ってしまった。見えなくなるまで見送ってドアを閉めるとそのままもたれかかり額に手を当てた。
寂しいと思ってしまった。
この気持ちは…。