「なまえちゃんが来ない!!」


エンジニアの研究室前を通るとそんな声が聞こえてきたのでそっと中を覗いた。


「お前がしつこいから嫌になったんだろ」

「はあ?お前だって大した用もないのに話しかけてただろうが」


エンジニアたちが醜い争いをしていた。見なかったことにしよう。





「みょうじはモテるんだな」


洗濯した俺のシャツを丁寧に畳んでいたみょうじはへっ!?と変な声を出して顔を上げた。


「なんですか急に」

「いや、今日エンジニアたちがみょうじを取り合っていてな」

「それはエンジニアが男性ばかりで女性が少ないからです。私だけじゃなくてあそこの女性はみんなそんな扱いです」


そうかな、あれは本気の目だったぞ。


「みなさん元気そうでよかったです…」


家出してから3日立つ。みょうじはボーダー内では行方不明ということになっている。本当は俺がかくまっているんだが誰にも言っていない。言ってしまったらきっと家に連れ戻されるだろう。そして今度こそ本当に二度と外に出られなくされてしまう。絶対にそんな目に合わせはしない。


「あの…東さん」

「ん?」


いつの間にかソファに座る俺の前に正座していた。


「もう3日もお世話になってしまってすみません。住むところが見つからなくて…親の了承がないと中々難しいんですね」


すっかり沈んでしまったみょうじの頭に手を乗せると顔を上げて笑ってくれる。


「でもめげずに明日も探してみます!」


両手をグッと握りよし!と言って立ち上がると洗濯物を片付けに行った。少しずつ明るさを取り戻して前向きになってくれて嬉しかった。やはり家に帰すわけには行かない。俺が守る。柄にもなくそんなことを思った。




翌日ラウンジに行くと風間が珍しく暗い顔をしてひとり座っていた。


「風間どうした」

「東さん…いえ、なんでもありません」

「そうか…」


何か言いた気だったがあまり聞かない方がいい雰囲気がしたのでその場を後にしようとしたら呼び止められたので向かいの席に座った。


「なまえ…みょうじが行方不明なのは知っていますよね」

「ああ」

「あいつの家は少々ややこしいのでもしかして閉じ込められているんじゃないかと思いまして」

「ふたりは昔からの知り合いか?」

「幼馴染です。それでみょうじの家に行ったんです。そしたら…」


なんだか俺が緊張してきた。


「でかいトラックが止まっていました。あいつの部屋にあるもの全部処分するために用意したものです。家出か追い出されるかしたのでしょう。おそらく前者でしょうが…そして帰って来ないと分かり存在そのものをあの家から消すためにあんなことをしたのでしょう」


絶句して言葉が出ない。淡々と告げる風間に寒気がした。


「そんなこと…」

「普通ありえないと思うでしょうがみょうじの居たところはそういうところなんです」


みょうじの祖母は想像以上の人だった。家に帰さなくてよかったと心の底から思った。


「それを見ていたら使用人が俺に気づいてこっそりこれを渡してくれました」


風間は足元にある紙袋を拾いテーブルの上に置き中身を取り出した。


「俺はこれをみょうじに渡したい。けれど居場所が分からないんです」

「風間、みょうじは…」


風間の真剣な目に俺は本当のことを話すことにした。



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