「あ…」
時間を確認しようとして左腕を見ると時計がないことに今更気がついた。時間を確認と言ってもあの時計はほとんど壊れかけているけれど初めての給料で割といいものを買ったのでずっと身に着けていたかった。
さっきラウンジで休憩しているとき一旦外したのを思い出した。まだあるか分からないがとりあえず向かうことにしよう。
ラウンジの自分がいた席を見ると女の子がこちらに背中を向けて座っているのが見えた。見覚えがあるような、ないような。近づくと気配に気づいたのかその子は振り返った。大きな瞳と目が合う。
「あ、みょうじ」
確かそんな名前だ。どのポジションを受けてもまるでダメだと一時有名になっていた。
みょうじは戦闘員の服ではなく女性用の制服を着ていた。そうだエンジニアになったと同期の沢村が言っていた。年齢が近いと喜んでいたが目の前のみょうじはなんだか幼く見えるなと今は対して関係ないことを思った。
「東さんお久しぶりです」
「久しぶりだな。元気にやってるか?」
みょうじはふわりと笑うと頷いた。笑うとさらに幼く見えた。俺はさっきから何を考えているんだ。それより何しに来たんだ。そうだ時計だ。よく見るとみょうじは俺の腕時計を持っていた。
「みょうじそれ」
みょうじは首を傾げると手元を見た。
「あ、この時計東さんのなんですか?」
頷くとどうぞと両手で差し出してくれた。
「がんぎ車のところが壊れていたので勝手に直させてもらいました」
がんぎ車ってなんだと思ったが聞いてもおそらく分からないので聞かないことにした。
「ありがとう。みょうじは時計が直せるのか」
「いえ、時計というか壊れているものを直すのが得意で」
「みょうじは凄いな」
頭に手を伸ばしかけて慌てて引っ込めて自分の手を見た。
俺は今何をしようとした…。
みょうじをチラリと見ると何か違和感がした。左頬異様に赤くないか。
「みょうじどうしたんだこれ」
「え」
みょうじの髪を払うと左頬に触れた。そこはまだ熱を持っていた。
「誰にやられた」
「ち、違うんです!転んじゃっただけです!」
嘘が下手すぎると思ったけれどみょうじは一瞬泣きそうな顔をしたのでそれ以上聞けなかった。そして我に返った。また触れてしまった。しかも無意識に。けれどみょうじは気にした様子もなく振り払うこともしなかった。
「ちゃんと冷やしておけよ」
「はい。私そろそろ戻ります」
「ありがとう時計」
みょうじは微笑むと横を通り過ぎて行った。
「みょうじ!」
何故か呼び止めてしまった。みょうじは不思議そうに振り返った。
「あまり無理するなよ」
みょうじは驚いた顔をした後少し寂しそうに笑った。そしてぶんぶんと大きく手を振ると走って行ってしまった。
何故あんなことを言ったんだ。そうだみょうじはあの日苦しそうに『助けて』と言ったんだ。今もその何かに苦しんでいるのか?
あの赤い頬が泣きそうな顔が頭から離れない。
訳を聞こうにもみょうじの姿はもうそこにはなかった。