20歳の誕生日を迎えたとき風間さんがお祝いにと飲みに誘ってくれた。
カウンター席に並んで座るといつもより距離が近くてドキドキしてしまう。
風間さんが隣にいることとお酒が入ったことにより私は少し、いやだいぶおしゃべりになってしまいつい家庭の事情まで話してしまった。
「私、家を出たいです」
「何故だ」
「親が過干渉で何をするにも息苦しくて」
「なるほどな」
「心配してくれるのはありがたいんですけどさすがに20歳にもなるともっと自由にいろんな事したいって思うんです」
「両親にはきちんと相談したのか」
「もちろんしました。一生懸命説得して20歳になったらって約束してくれたんですよ。それなのにいざ20歳になってみればやっぱりダメだって」
「何故そこまで干渉的なんだ」
「私、一人娘なんです。なので余計心配みたいで。一人なんて危ないから絶対ダメっ!だそうです」
「そうか」
「どうすれば両親を説得できますかね」
風間さんは顎に手をあてた。そこで会話が途切れた。
一人で話しすぎた愚痴っぽいと思われたかな。今更反省しつつグラスに入ったお酒をぼんやり眺めた。
「じゃあ一人じゃなければいい」
「え?」
「俺と暮らせばいい」
一時停止したように一瞬動けなかった。
「風間さん酔ってます?」
「酔ってない」
「暮らせばいいってそんな付き合ってもいないのに…」
「付き合えばいい。俺はなまえが好きだ」
印象的な目でまっすぐ見つめられ赤いだろうなと自分で思ってしまうくらい顔に熱が集まるのが分かった。
「お前はどうだ」
「わ、私も風間さんが好きです。ずっと前から」
好きじゃなければ飲みに誘われてついて行ったりしない。ずっと憧れていた大好きな人。そんな人に告白されるなんて。
「明日あいさつに行くぞ」
「え、うちにですか」
「当たり前だろう。こういうことはきちんとしておかないといけない」
なんて真面目な人なんだ。さすが風間さん。頷くと風間さんはフッと笑ってくれた。
しばらく話し込んでお店を出た。なんだか気持ちがふわふわする。酔っているからじゃない。
家まで送ると言ってくれた風間さんの言葉に甘えることにした。家の前に着くと途端に寂しくなった。
「もしかして夢なのかな」
「なにがだ」
「風間さんが私のこと好きって言ってくれて。しかも一緒に暮らそうって」
思い出して熱くなる頬に触れるとその手を掴まれたかと思ったら唇に柔らかい感触がした。ちゅっと可愛らしい音がしてすぐ離れた。
「まだ夢だと思うか?」
「いいえ」
「ならいい。明日14時頃お邪魔する」
「はい」
びっくりしすぎてロボットみたいな受け答えしかできなかった。風間さんって本当に男らしい。
翌日、風間さんは両親にきちんとあいさつしてくれた。
反対されるかとドキドキしたけど両親はたいそう喜んでくれた。
両親は風間さんに助けてもらったことがあるらしくその時からずっとファンだったらしい。
こんな娘でよければ今すぐ貰ってやってくださいとか言い出した。
そして風間さんはそうしますと言った。いやいや。ちょっと待って。
◆◇
「風間、おい風間!」
「え?あ、私か」
振り向くと諏訪さんがニヤニヤしていた。
「まだ慣れねぇの?」
「あまり呼ばれないので」
あれから一緒に住んでトントン拍子に話が進んで私はいつのまにか風間なまえになっていた。
いや、ちゃんとプロポーズされてもちろん了承してこうなったのだけど。その話はまあいいや。
ボーダー内ではややこしいのでたいてい下の名前で呼ばれる。名字で呼ぶのは新人の子かこんな風にからかう諏訪さんくらいだ。
「お前らが同棲とか結婚とか言い出した時はびっくりしたぜ」
「私もです」
なんだそれと言って諏訪さんは笑った。
「風間って家ではどうなってんだ」
「どうなるってなんです?」
「甘えてきたりすんのか」
「うーん」
家での蒼也さんを思い出してみる。
何事もきっちりしているように見えて意外に朝が弱い。何度か起こさないと一向にベッドから出てきてくれないときもある。
ソファでくつろいでテレビを見ていたらいきなり膝に頭を乗せてきてそのまま爆睡しだしたりする。そして寝顔がとてもかわいい。これが甘えてくると言うことなのかな。
「しますね。甘えてきます」
「超見てぇ!」
「ダメです。私だけの特権です」
「へいへい。ごちそーさん」
諏訪さんと談笑していると名前を呼ばれた。振り返ると蒼也さんがいた。
「帰るぞなまえ」
「はい。では諏訪さんお先に失礼します」
諏訪さんはひらひら手を振って見送ってくれた。
「なまえ。なんだか楽しそうだな」
「はい!蒼也さんといれて幸せだなーと思って」
「俺もだ」
私が笑うと蒼也さんも笑ってくれた。