らしき人




「オメー、誰だ?」


目の前にいる男がそんな事を言っていたが、そんな問いにも答えられる余裕などない。
そりゃそうだろう。漫画の世界だけだと思っていた人物がすぐそこにいるのだ。
驚きは呼吸をすることさえも止め、ただ声になって出た。


『あ、ああ...え..ま...』
「あ??なんだって、て、お、め......。」
『ま、マジかァァァァァァァァ!!!』
「ヒギャァァァァァァァァァァァァァ!!!」


あれ、なんか自分以外の叫び声もした気がする。でもそんなことどうでもいいとさえ思えた。
だってあの坂田銀時が目の前にいるのだ。
『ええええ!!!??』
私は驚くあまり後退していた。


ずっと夢の世界だと思っていたから。
どんなに思ったって、感じたって、あくまでも漫画のキャラ、紙一枚の上の絵なのだ。
そんな芸能人以上に会うことのない人物に会えているのだ。


口を開けて放心していると、坂田銀時が急に頭を床になすりつけながら土下座をした。
「すっいませっーーーん!!!」
『.....え?』


状況が全くつかめていない私をおいてきながら、未だに言葉と土下座を続ける。
「いやほっんとすみませっん!!!!こんな、こんな口きいちゃって、ほんと、ほんとっ....」
『いや、ちょっと待って、なに!?ええ?』


何だか坂田銀時の顔が真っ青になっている。まるで幽霊でも見たかのようだ。だが、それがなぜなのかをこの状況で頭で考えることは出来ず、反射的に胸の前で手をブンブンと横に振りながら、坂田銀時に近づいた。


『いやっ、なんかその大丈夫なので!だからその頭あげて下さ、』
「オギャアあああ!!!こっちこないでくださーい!!」
どんなに大丈夫だ、と言葉を発しても全く耳を貸さない銀時に少しずつイラッとしてき、耳元まで顔を近づけ大声で叫ぼうとした、が。


『だから、大丈夫だっていってんで...
「こっち来んなって言ってんだろォがァァァァ!!!!」
『へ、ぶうっ。』
途端に頬に激しい痛みがやってきた。
銀時に殴られた、という事実を理解する前に目の前が真っ暗になりそこで意識が途絶えた。






「銀ちゃん、早くここを開けるよろし。」
「銀さん、いったい何を隠してるんですか。」
「だから何も隠してねぇって!!」


.....ん?なんか慌ただしい声が聞こえる。
「じゃあなんで開けてくれないんですか。」
「それは、えっと、お、大人の事情だよ。」
「あ!分かったね、エロ本でも隠してるんでしょ。そんな子に育てた覚えは無いネ。」
「だから、ちげぇって言ってんだろ!」
「てか神楽ちゃんどこの親。」


......んん?もう何、なんか喋ってる。
不思議に思いもう一度眠りにつきたい衝動に耐えながらムクッと体を起こし、重い瞼を半分ほど開ける。


きっと今自分すっごい不細工な顔してるんだろーなー、などと思いながら声のする方を見ると白い着流しを着て必死に襖を開けられまいと葛藤している銀髪の男がいた。


『あーもー何やってんの。相変わらず万事屋はうるさいんだから。』
と言いながら再び布団に潜ろうとした、が。
『.......ん、え?万事屋?』
そのまま首を90度にグルンと回転させると、真顔でロボットのように口を開けた。


『うえええええええ!!!ぎぎぎ、銀さん!?」
「ぅえ!?うわやっべ起きた。」
「ちょ、起きたってなんですか!まさかあんた、女性でも誘拐してきたんじゃっ...。」
「そんなことする奴は女の敵ネ。」
そう叫ぶ声が少し止んだと思ったら、今度は叫び声が響いた。


「おォォォらあああ!!!」
すると私のすぐ近くを襖と男がギリギリかすって部屋の奥へと飛んでいった。

あまりに一瞬の出来事だったため寝起きの私の頭では展開についていけず、ただポケーっとしているとチャイナ服を着た女の子に腕を引っ張られ無理やり立たされさっきまでいた個室から連れ出された。


『え、え、え!?』
「オマエはここに居ればいいネ。」
女の子はそう言い残し先ほど飛ばされた男をボコボコに殴り始めた。
てゆうか、これ銀さんと神楽ちゃんだよね。
正真正銘万事屋だよね。


頭をひねるようにうめき出す。
私、なんでこんなところに、銀魂の世界に。
『........っ!!!そーだった。私、昨日。』
「大丈夫ですか?頭の調子が悪いんですか?」
昨日の夜のことを思い出していると、横からメガネをかけた一見地味な、いや、何度見ても地味な男が話しかけてきた。


「アレ、ちょっと今失礼なこと考えた?」
『ちょっとまってうるさい、新八。』
「あれ、なんか僕に冷たくない?てゆうか名前....?」


私は銀魂の世界に来たという驚きに、隣の新八は自分の名前を知られていることに突っ立ったままでいると、先ほどのチャイナ服の女の子ーー神楽ちゃんらしき人が、銀髪の男ーー銀さんらしきの人の着物の首を掴み引きずりながら歩いてきた。


らしき、というのは、まだ自分の中で目の前にいる人物が本当に銀魂の世界の人物なのかまだ信じきれないからだ。
ボロボロになった銀さんらしき人が私の目の前にくると昨晩のように土下座をした。


「す、すみませんでした。」
『あ、いえ、銀さん、大丈夫っす。」
てか私、何もされてないんで。
謝られる理由なんて見当たらないのにまたしても土下座をされた、しかも初対面の人ばかりの前で。そんな風にされたってなにも戸惑うだけで言葉も出て来やしない。


口を引きつったまま半笑いでいると、銀さんらしき人が驚いた、という顔でこっちを見上げた。
「オマエ、なんで俺の名前....」
「もしかして知り合いだったアルか?」


神楽ちゃんらしき人がおずおずと聞いてくる。勝手に話も聞かず銀さんらしき人を殴ってしまった、という事に多少でも悪いことをしたという思いがあるのだろう。


そんなことにも私は罪悪感をかんじすぐにそれを否定した。
『あ、ううん。知り合いって訳ではないんだけど。』
「じゃあ、どんな関係なんですか?」
そんな風に聞かれると何かいかがわしいように感じてしまう。


「あ?俺ァこんな奴知らねーぞ。」
「今はお前のことなんて誰も聞いてないネ。」
そんなコントのような会話が繰り返される中私の頭の中はゆっくりとだが、しっかり回っていた。
これって、ちがう世界から来たって喋っちゃっていいのかな。


え、どーしよう。


『えーと、えーと、ですね〜。』
言葉に躊躇っていれば躊躇っているほど、言葉にしにくいような関係だったのかと疑われる。
「も、もしかして銀ちゃんとのいかがわしい関係!?」
「ちっげーよバカ!.....あれ違うよなァ。」


ごつんと一発神楽ちゃんらしき人の頭を殴るが、その後目を斜め上に向け考え込んでしまった銀さんらしき人。
ちょ、そんな態度取ると余計に怪しまれちゃうじゃん。仕方がない。他の世界から来た、という事は言わずにおこう。


『私とあなたは初対面のはずですよ。』
「だ、だよな〜よかったー。」
それでもまだ考えるところがあるのか、歯切れが悪い。思い当たるような節があるのか、と今度は私まで疑いそうになる。


「じゃあ、なんで僕たちの名前を知ってるんですか?」
いい加減話が進まないと思ったのか、メガネの新八らしき人が改めて質問をした。
「まつアル、まだ私の名前呼ばれてないネ。もしかして私の名前も知ってるアルか?」
「もちろん、神楽ちゃん....だよね。」


そう答えると神楽ちゃんらしき人は目を輝かせ鼻息を荒くし
「さすが私、歌舞伎町の女王アルな!」
と胸を張って話す。
「こらこら神楽ちゃん。僕の質問を中断させないでよ。」


.........やっぱり。この感じ。この雰囲気。絶対に、と言える根拠はないが、確実にここはあの万事屋だ。


つまりは、昨日の思った通り私の銀魂の世界の行きたいという願いは本当に叶ってしまったのだ。あり得ない、そう思いたいが自分が今まで大好きで何度も見てきたこの場所を間違えるはずがない。
現実なのだ。
頭の中を整理していくうちにこれから自分がするべき事もどんどんとはっきりしてきた気がする。
叫んだり喜んだりはその後だ。


大きく息を吸い吐いた後、銀さんらしき人、いや、銀さんの顔を見た。
『私はこの万事屋に依頼があってきました。』
「い、依頼ィ?」
私は大きく頭をさげる。


『はい。私をここで住まわせて下さいっ!!』


おまけ


「結局僕の質問には答えてくれなかった。」
『あ、ごめんなさい。皆さんの名前を知っていたのは、依頼をするために下調べしていたからなんです。』

「あ、そうだったんですか。よかった〜答えてくれて。ぼくが地味すぎるから無視されたんだとと思いました。」
『え?地味なのは間違ってないんじゃない?』
「えっ........。」


一人テンションが低かった新八でした。



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