願い叶っちゃった


『あああー。』
今日は3月30日。明日は私の誕生日だ。
なのに...なのに


『春休みの課題が全然終わらなーい!』
一度こうと決めたら最後まで貫きとうす性格の自分。とはいっても、たいがい達成できず途中で諦めるのだが。

4月になる前に課題は全て終わらせると決めたまでは良かったのだが、高2の課題の量は大学受験の準備だなんだといって尋常じゃない。明日一日使えばなんとか終わらなくもないが、誕生日にわざわざ勉強なんか死んでもしたくない。

机に突っ伏したまま金魚のように口先をパクパクしてみせながら時計を見つめると、いつの間にか夜遅くになっており針が11時30分を示すところだった。


『ああもーやだー!』
なんか腹が立ってきた。ふざけんなよ。こんなに無理矢理勉強させるから最近の子は腐ってきちゃってんだよ。オメーラ大人がなんとかしやがれこのヤロー!!


そんなことをぶつぶつ呟きながら、近くにあった漫画を一冊掴み取った。
『お、銀魂じゃん。もういいや読ーもう。』
手に取ったのは一番のお気に入りの漫画、銀魂だった。
『ぷっ、あははははっ、銀さん最高っ。
土方スペシャルヤバイ...総悟もSすぎ。』


私が銀魂を読み始めたのは去年の春休みにアニメの銀魂をDVDレンタル屋で借りて見たのが始め。徐々に見ていくうちにアットホームでバカバカしいあの雰囲気に惹かれ一気にハマっていった。


『あーあ、一冊読んじゃった。』
目の前のデジタル時計を見るとぴったし12時になっていた。
『あ、誕生日になった。んんー。』


椅子にグデーっと寄りかかりながら漫画を閉じると一緒に目をつむった。そして浮かんだのは漫画の中の光景。


....私も銀魂の世界に住んでみたい。
朝から夜まで万事屋でグデグデしてみたい。
いや、でもやっぱり真選組で働くのもいい。
会いたいな、一緒に笑ってみたいな....
『銀魂の世界に入りたい...。』


いつの間にか声に出してしまっていた。
もしかしたら誕生日だし神様がこの願いを叶えてくれるかも。そんな考えが少しあったのかもしれない。


『まさかそんなことないよねー。うー寝る前にトイレ行きたい。』
ガコッと椅子から立ち上がりトイレに行こうと部屋の扉を開ける。
『.........ん?』


するとその扉は廊下につながっておらず、トイレに直接繋がっていた。
しかしそれは自分の家のトイレではなく和風テイストの壁の全く身に覚えのないトイレだった。
『.................あははやった〜。もしかして神様が私のトイレに行きたい、って願い叶えてくれたの〜?いつもより近くていいねー嬉しー。


じゃねぇよこのヤロォォォォォォ!!!!!』
手には何も持っていなかったのだが、何かをじめんに叩きおとす様な素振りをしながら大声で叫んだ。


『なんでコッチィィ!!?なんでトイレェェ??叶えるなら普通銀魂の世界でしょ!!?しかもこんな古臭い汚いトイレ!せめて超綺麗な高機能トイレとかにしてくんないっ!?』
突っ込みどころ満載の展開に私は叫ぶ他なかった。


ゼイゼイと肩を上下に揺らしながら息をし、次第に落ち着きを取り戻す。
よくよく考えればこれでもあり得ない方なのだ。だってドア開けたらトイレだよ。普通こんなことないって。しかもお腹壊した時とか便利じゃん。今は全然意味ないけど。


『はーもう仕方ない。せっかくだし使ってみよ。』
どんなに考えてもツッコミをいれても変わらない。なんならこの奇跡体験してみよう。自分も大したチャレンジャーだなと考えながらトイレの個室に入り、用をたした。


『意外と座り心地良くて落ち着くトイレだったな。』
ジャーっと音を立てるトイレを背に自分の部屋に戻ろうとトイレの扉を開ける。
が、そこにはまたまた私の予定を大きく揺るがす景色が広がっていた。


『私の部屋じゃ....ない。』
今度は全く自分の家とは似ても似つかぬ廊下が広がっていた。
『えっちょっと待って。ここなんで私の部屋じゃないの?え?え?なに?』
何回も何回も扉を開け閉めするが一向に自分の部屋には変わらなかった。


『嘘でしょ!嘘なんでしょ、なんで!!待って待って待ってここどこ!??』
扉が壊れるんじゃないかと心配になる程ガタガタと開け閉めをするが現状は変わらない。
『ど、どうしよ....。』


このままジタバタしたってきっと意味はない。
一度深呼吸をし、改めて扉の先にある廊下とその右側にあるにある玄関、左側にある部屋らしきものの扉を見つめた。そしてあることに気づいた。
『どっかで。』


見たことある。
でもどこで?友だちの家?違う。もっと、近くから、そして遠くから。
いつの間にか私の足はのっそりのっそり静かにトイレから出て廊下の先の部屋に進んでいた。
そして私の中にあった予想は確信に変わりつつあった。


やっぱり、やっぱり。


ガラスで出来たスライド式の扉の取手にゆっくり手をかけ、扉を開けた。その手にはじんわりと手汗がにじんでいた。


ガラッ


「おい神楽!なにガタガタ騒いでんだ。トイレ壊すんじゃねー....ぞ。」
開いた扉の先にはあの場所独特のデカデカと糖分と書かれた習字の下にある椅子に座り、プリンを食べながら鼻に手を突っ込んでる死んだ魚の目をした銀髪天パがこっちを見ていた。


叫ぶ声の大きさに少しビクッとなってしまったがそんなことより驚くものがすぐ前にある。
まさか、まさかこんなこと起こるだなんて。
銀髪の相手は暗い部屋で赤い目を細めながらまた口を開いた。


「オメー、誰だ?」
願い
叶っちゃった。



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