真っ白なキャンパスに薄く水色を乗せてぼかした様な、そんな、淡い色をした空が美しい午後の一時だった。こんなにも清々しい空気の中、一人バス停に佇む立川はどこかどんよりと曇ったような雰囲気を纏っており、青い空を背景に見事にコントラストして、その佇まいは一枚の絵にも見えた。こんなにも辛気くさい雰囲気を纏いながらも、彼女は今、旅に出ようとしている。
ハンカチとティッシュは忘れずに持った。着替えも数日分はトランクに詰め込んだ。歯ブラシは忘れていないか? 共に眠るくまのぬいぐるみは? 用意は万端だったが、一つだけ、決定的な忘れ物をしていることに彼女は今気づいたのだ。それはなんとも馬鹿らしく、なんとも彼女らしい忘れ物だった。立川はまだ、旅の行き先を決めていなかった。
「はぁ、どうしよか…」
立川はひとりごちる。
そもそも彼女が旅に出ようとしたきっかけからしてこの旅の命運を示すに相応しい理由だった。それは只一つ。彼女は忘れたかったのだ。学校を、バイトを、社会を、自分の実力、将来のビジョン、そう、現実を彼女は忘れたかった。
演劇を学びに朝は学校、学校が終われば厳しいアルバイト、それが終わり家に戻れば将来の不安やら今の自分の実情、その他もろもろ居たたまれない考えが自分を襲い、自分で自分の首を絞めながらのマイナス思考との闘いの毎日。こんな過酷な日々が毎日毎日繰り返される中、もういい加減疲れてしまったのだ。
だから立川は逃げに出た。旅をしようと思い立ったのだ。
「まあ、なんとかなるか」
立川はバス停の表を眺めながらまた、ひとりごちる。これから先、どんなことが待ち受けているかわからない。だが立川の心は今確かに満たされていた。
不安も苦労も何もかも置いて、彼女は大切なものをトランクに詰め、今、旅立とうとしている。



筆者:めのくま
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -