※3Z沖田と社会人の夢主が同棲中



「なあカエさん」
「なに総悟」
「今日学校休む理由熱のせいにしていいですかい?」
「熱もないのに?」
「カエさんのせいにしていいですかい?」
「そんなのやだよ」
「じゃあ社会のせいにしてもいいですかい?」
「いいよ」
総悟がテーブルに肘をついてだらけている間、私はてきぱきと会社へ行く準備を始める。顔を洗って、歯を磨いて、スーツに着替えて、髪を解いて……その間にも総悟は行きたくない行きたくないと文句を言いながら朝食を食べているから、これは彼は遅刻だろうなと思った。学生は遅刻が許されるからいいわよね。
すっかり準備が整って、予定の時間ギリギリまで総悟を待ってやろうと朝の星座占いを見ていると、やっと総悟が動き始める。
「あー行きたくねえ」
「早くしなさいよねー、ギリギリまで待っててあげるから」
そう言うと総悟は私をちらりと見て、そのままテレビ画面をじっと見つめる。
「ああ、今日俺運勢悪いんで休みまさあ」
「おいふざけんなよ」
そんな黒猫が横切ったからみたいなふざけた理由で休めると思うなよ。
再びだらけ始める総悟を見ながら、私は思いきって言ってみた。
「総悟と暮らすようになってから、苛立ち、不条理、怠惰、傲慢、脱力、無力、諦め……数々の人のマイナス面を学んだ」
「そしてカエさんもやっと一人前になれたんでさぁ」
なんの反省もしてはくれなかった。第一、未成年のあんたに比べたら私はもう一人前よ。
呆れてものも言えず、私は総悟を見捨てて会社へ行こうと、立ち上がって玄関へと向かう。靴を履き、ドアノブに手をかけたところで、ふいに後ろから抱き締められた。もちろん総悟だ。
「なに?」
「もう行くんですかい」
行くよ、あんた待ってたら私まで遅刻しちゃう、そう言おうと思って総悟の顔を見遣ると、総悟は迷子の子供のような顔で、心細そうに私を見つめていた。
「なによその顔」
「いや、俺を一人にして行っちゃうのかあって」
なにそれ。やめてよ、そういうの母性本能くすぐられちゃうじゃない。ただでさえ私が年下に弱いの知ってるでしょうが。あんたと付き合ってる時点でわかるでしょ、それだけじゃないけど。
「年下の甘えを使わない!」
弱いからって負けるとは限らない。ほら、私が言うと、案の定総悟はいつもの無表情に戻って、平然と「そうですかい」などと言う。
「でもこういう俺が好きなんでしょう?」
「ったく……わざとやってんのね、昨日のプリンのときの媚びるような目もそうか」
「さあ」
いつもいつも甘える子供のような目にやられるけれど、それがわざとだとわかっていたら負けたりなどしない。小さなことではまあいいかななどと思って折れてやるが、社会人が恋人を理由に遅刻などあり得ない。
「とにかく私はもう行くから、」
総悟もちゃんと学校行きなさいよ、そう言おうとして、男の人の強い力で腕を引かれ、すっぽりと総悟の腕の中に抱き止められる。抗議の声をあげようと総悟を振り向くと、そのまま唇を奪われた。触れるだけの軽いキス。だが、触れる唇が優しくて、温かくて、いつまでも続いてほしいだなんて思ってしまう。
しかしやがて唇は離れる。名残惜しげなリップ音のあと、総悟を見る。どんな顔で彼を見ていたのかはわからないが、総悟は勝ったとでも言いたげに笑んでいた。
「あんたねえ……」
「会社休む気になりました?」
そう言って総悟が私の首筋を撫でる。
可愛い年下が好きだったはずが、なんでこんな生意気なのに引っ掛かっちゃったかなあ。
「休みません!」
「ちぇ」
彼は不貞腐れ、膝を抱えて頬を膨らませた。可愛い。恐らくこれは本当の可愛らしさ。そうそうこういうところが好きなのよ私は。
でも折れてやらないからな。
「私はもう会社行くから、総悟も学校行くこと! それから……」
総悟が私を上目使いに見る。ああこれは天然じゃないなと思いながら。
「さっさと一日終わらせて、愛し合おうぜ!」
いってきます。私はドアを開ける。朝日がキラキラと眩しい。背後からいってらっしゃいと聴こえ、満たされた気持ちで会社へと向かった。



筆者:めのくま
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