星のような彼が好きだった。
人より頭一つ分高い彼の銀の髪はキラキラと光に輝いて、どこに居たってすぐに見つけることができる。私の眼を惹き、魅了する彼は昔から私が大好きだった星のようで、夜空を見上げて眺めるそれと同じように、私はいつも彼を眺めていた。
いつか、鳳君と一緒に星が見たいと言ったことがある。星? と目をしばたたかせる鳳君に、うん、星、と私は繰り返した。
プラネタリウムじゃなくて、ビルの隙間からじゃなくて、どこか私たちの他に誰もいない、そんなところで見たい。そう言うと彼は、星かあと呟いて、顎に手を当てて何かを考えていた。それきり何も喋らず帰路に着いたので、私は半ばその望みを諦めていたのだが、今私は一面の星空の下、鳳君と二人きりで星を眺めていた。
プラネタリウムじゃなくて、ビルの隙間からじゃなくて、どこか私たちの他に誰もいない、そんな場所で、二人でさんざめく星を眺めている。

双子座流星群って言ってね。野宮と見に行きたいんだ。きっと綺麗だよ。

昼間の彼の言う通り、流れては落ちる星の群れはとても美しく、私は息を飲む。
「綺麗……」
そう呟くと、鳳君も、「綺麗だね」と呟いた。
そっと、鳳君の横顔を覗き見る。
星に照らされた彼の髪もキラキラと輝いていて、この星空に負けないくらい綺麗だった。
彼の瞳の奥にもたくさんの星が輝いていて、彼が瞬きするたびそれが溢れ落ちそうで、私はひっそりと慌てた。
星のような彼と、流星群を見送って、シリウスを眺め、星座を結んで……そんな一時は、幻想的で夢のようで、私も星になれたような気がした。
二人でいつまでも星空を小旅行していたかった。でもそれはできないと思った。
流れ星もこの想いも、瞬く間に流れ落ちる。そんな気がした。
星に手が届かないように、彼はいつまでも雲の上の人で、届いたように見えてもすぐに手の中をすり抜けていってしまう。
中学生の幼い恋なんて本当に一瞬のもので、いつか私は別の人と星を眺める日が来るのだろうと、そんなことを考えて、寂しくなった。
「何考えてるの?」
ふと、隣の鳳君が私に問いかける。
「そんな、悲しそうな顔して何考えてるの?」
鳳君を見つめると、彼も悲しそうな顔をして私の頬に手を添えた。彼も流れ星のようにどこか遠くに消えてしまうんじゃないかと思うような、悲嘆な表情に、私もそっと鳳君の手に自分の手を重ねた。
「……鳳君のこと」
素直に答えると、彼は、ふ、と優しく目を細めて笑い、「俺も」と言った。
「俺も野宮のこと考えてた」
笑っているのにどこか寂しげな表情で、不安になる。手を伸ばせば触れられるのに、どうして届かないの。
「野宮、俺……」
開きかけた口はすぐにつぐまれて、静寂が訪れる。
「なんでもない」
そう言うと鳳君はまた星を見上げた。彼の瞳の奥の星がキラキラと綺麗で、きっと私は今日のことを忘れないと思った。
同じことを考えている。
きっと同じことを考えている。
触れられるのに届かない想いはいつか流れ落ちる。
好きだよ、
そう言ってもらいたかった。そうすれば、私もあなたの隣で輝けたのだろう。
わかっているのに踏み出せない臆病な二人で、いつまでも星空を眺めていた。



筆者:めのくま
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