リクエストのページ | ナノ

■ ■ ■


「お父さん」

それは、愛しき我が子の発言が発端だった。

「お母さんを、泣かせちゃダメです!」




「…え、えぇええええ?!」
仰天したロランの声が、家の隅々まで響き渡る。
彼にしては珍しい、その大きな声に驚いて、私は慌てて部屋を飛び出した。

「ど、どうしたんで…」
「フルール!」

私が全て言い終える前に、がっしと肩を掴むロラン。飛びつかんばかりのその勢いに、私は内心慌てながらも、なんとか平然を装った。

「ロ、ロラン?どうしたんです?」
「ラ、ラーフが…!」
「ラーフ?」

ラーフは可愛い我が子の双子の妹。まだ幼いながらもたおやかで明るく、美しい少女となるに違いない、そんな成長の片鱗を覗かせている。
自分としてはロランに似てほしいと思っていたりするのだけれど…と、今はそんなどころではなくて。
目の前で眉尻を下げる、彼の言葉を聞かなければ。

「ラーフが、どうかしたんですか?」
「ラーフが言っていたんです!僕が、フルールを泣かせてしまったと…!」

…はい?
完全に固まった私の前で、ロランは困り果てた顔をする。そのまま肩をぐいっと引き寄せられた。

「ごめんなさい、フルール…!僕が何かしたなら謝ります、だから、僕に隠れて泣いたりだなんて…!」

ぽかんとしている間にロランに強く抱きしめられて、私は目をぱちくりさせた。
数秒、そのままで時間が止まり、それからやっと状況を把握する。

「…ええ、と、ロラン?すみません、おそらく勘違いだと思うのですが…」
「僕に悪いところがあるなら…て、え?」
「私は、ロランに泣かされた覚えはありませんよ?」
「え…ええ?」

背中に回されていた腕が離れ、目の前にはびっくり眼のロランの顔。
…私もかなりびっくりしているのだけれど。

「…でもラーフが、確かにさっきフルールが、お菓子を作りながら泣いていた、と…!」
「え…あ、ああ!」
「えっ?!」

私がぽん、と手を叩けば、途端に青ざめるロラン。

「や、やっぱり僕が…!」
「いえいえまさか!ぼうっとしていたら、砂糖と間違えて香辛料を振ってしまったんですよ」
「……はい?」

今度はロランが固まる番。
ぴしり、と音でも鳴りそうなほど綺麗に硬直した彼に、私は優しく微笑みました。

「私としたことが、とんだうっかりを。でも大丈夫ですよ、盛大に香辛料を振りかけた生地は、いちから作り直しましたから」
「…ええっと、では」
「はい」


「…フルールは、香辛料のせいで泣いていた、と…?」


「ええ。危うくくしゃみが止まらなくなるところでした」
香辛料って、思っていた以上の刺激があるんですね。
そう言って笑った私に、突如ロランが抱きつきました。

「え、ロラン?!」
「…びっくりさせないでください。僕は、あなたに何かしてしまったのではないかと…」
「…ふふ」

ぎゅうっと肩を抱く彼の髪に、ふいっと手を伸ばして。

「慌てたロランも、可愛いですね」
「…フルール!」

すねたような声を出すロランに、私は声を立てて笑いました。






▼気楽姫様へ
気楽姫様、この度はアンケートおよびリクエスト企画へのご参加、ありがとうございました!気楽姫様には閲覧者としても大変お世話になり、お礼の申し上げようもありません。

「フルールとロランは恋人同士、甘めの絡みで」とのことでしたので、双子の子供の妹ちゃんも登場しての、甘い感じを目指してみました。自分の文章力では気楽姫様の素敵なフルールちゃんの世界を壊してしまう気しかせず、公開に踏み切った今もかなり冷や汗ものです。
気楽姫様、もし訂正箇所や変更部分がありましたら、遠慮なさらずお伝えください。お手間をかけ申し訳ありませんが、ご連絡頂ければ書き直しさせて頂きます…!

当サイトの以前からの閲覧、そして初めての拍手、本当にありがとうございました!
強く可憐なフルールちゃんを、これからもこっそり応援させて頂きます。
この度はありがとうございました。

管理人:馨(かおる)




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -