今宵、ここで君を殺す | ナノ
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久しぶりに会った彼は痩せていた。
『や、恭弥』
『…痩せたね』
『あいさつ無しかよ、って、え?』
『痩せた』
『え、ああ…そう?』
くしゃくしゃと髪をかき乱し、一瞬はぐらかすかのように笑った彼は、しかしこちらの顔を見て表情を変えた。
『…あーもー、ダメだなあ。恭弥にはなんでもわかっちゃうんだ』
『…任務』
『へ?』
『任務、やたら大きいのばかりこなしてるってね』
『あ、うん…まあね』
『沢田とセットの任務ばかりとか』
『…ん、まーそうかな』
『…ふうん』
認めた、というなら本当なのだろう。
彼が沢田綱吉と仲が良いのは高校から変わりない。
そのあたりも、彼の揺るがないところだった。
『…珍しいね。君が』
何気なく問いかけたつもりの言葉に、しかし、確かに彼は肩をかすかに震わせた。
震わせたように、見えた。

『……まあ、さ』

ゆがんだ口元が、やけにはっきり目に焼き付いた。

『…妹の手術代…稼がないといけないから』






それでも自分の前にいる彼は、気負っているものを捨てたかのように楽しそうで、明るかった。
実際、捨てていたのだと思う。以前と何ひとつ変わりない態度で、しごく気軽に彼は言葉を紡いでいた。

『なあなあ、きょ、お、やー』
『まとわりつくな。うっとうしい』
『冷たいほんっとありえねー!なあ4ヶ月ぶりの逢瀬だぜ?もっとベタベタしてこいよ!』
『4ヶ月?何言ってんの、5ヶ月だよ』
『……へ?』
きょとんと馬鹿みたいに首をかしげる、その間抜け顔に苛立った。
『5ヶ月、だよ』
わざと数字を強調する。
忘れたのか、この馬鹿が。
苛立ちを込めた目で睨めば、しかしなぜか彼は頬を緩めた。嬉しそうだ。
『なんだよ、恭弥数えててくれたの?』
『!』
『うっわ俺嬉しー。恭弥いっつも素っ気ねーのにさあ、数え間違いすぐ気がつくレベルとか、』
『うるさい』
いらいらした。その勢いのまま襟元を引く。
一瞬で小煩い口を塞げば、鼻先で大きく開かれた目がぎゅっと閉じる。
見る見る頬を上気させる、いまだ慣れないらしいその初心な反応は愉快に思った。









春に出逢った。夏に思い出を作った。
秋にキスをし、冬に揃いのマフラーをした。
次の春には通学路を並んで歩き、夏には暑いとグダる彼を応接室に引っ張り込み、仕事を押し付けた。
秋には彼が風紀委員になった。驚愕に目をむく沢田に、彼は嬉しそうに風紀の腕章を見せつけていた。
冬は彼の家に行った。こたつでうっかり眠ってしまって、写メを撮った彼を全力で咬み殺した。
次の春は自分が大学へ行った。恭弥と離れると半泣きの彼が、その頃初の任務で自分とペアになって、途端に機嫌が絶好調に変わった。
その夏は、秋は、冬は、そして次の春は。



「…きょうや」




思い出ばかりが駆け巡っていく。
走馬灯のように浮かび、過ぎ去り、瞬いては消える。
どうしてだろうか、過去を思うだなんてそんなこと、今までありはしなかったのに。
目の前を過ぎ去る過去が終わりに近付けば近付くほど、今に向かえば向かうほど、
目が痛くなる。嫌だと思ってしまう。
そう、嫌なのだ。今にたどり着いてしまえば、



こうして2人銃口を構える、この場所にどうしても向き合わなくてはならなくなるから。




「…恭弥」

呼ばれる。
名前を呼ぶ声が聞こえる。
高1の頃はしゃぎながら名字を呼んだ、その声と同じ声が、今度は己の名前を呼ぶ。





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