夢の世界に溺れる | ナノ
思い出したくもない過去の始まり
「……ちょっ、待てよジジイ! いきなりどういうことだよ!!」
「シー!」
「シーちゃん?!」
「大ジジ様?! これは一体……!」

 いくつもの声が飛び交う前、俺は静かに目を閉じた。心が空っぽになっていくのを感じる。

 絶望。

 よく知っていた、そして二度と知りたくなかったはずのその感覚が――確かに、心中に蘇っていく。

「……シー……っ!」

 虚ろになっていく俺の心に、鮮やかに響く声。名前を呼ぶ、胸に浸み込むような声だ。
 ――アルヴィスの、声。

「シー! 目を開けろ、どういうことだ?!」

 ヤダなあ、そんな声音で叫ぶなよ。らしくない。
 せっかく全ての感覚を閉ざそうと努力してる、俺の心が無駄な期待をしてしまうじゃんか。
 そんな、泣きそうな声で呼ばれたら。

「ドロシー、お主も知らぬ事じゃ……シティレイアの存在は、10年前、カルデアから秘密裏に抹消されたのじゃから」
「……まっしょう……?!」

 どよめきが、困惑が、ひしひしと伝わってくる。
 俺はふらり、後ろへよろめいた体を重力に任せ、背中を鉄格子伝いに滑らせた。
 傾いた俺の体を支えてくれる人は、もう、いない。

「ココから先は、かの少年の詳細な説明が要る……じゃが、その前に」

 再び、魔力の気配。
 ああ優しいね、わりと痛いのも覚悟してたのに。

「――スリーピーリング!」

 シー、と誰かの悲痛に満ちた声が聞こえたのを最後に、俺の意識は暗転した。


△▼



 別にさ。
 俺も好きで、こんな体に生まれてきたわけじゃないんだって。

 ただ生まれついた時から魔力が強くて、カルデアではそこそこ上流家庭だった両親は、周囲の目やら言葉やら、つまり有り体に言えば体裁を気にして怖がって、
 ああ、まあ俺の事を気味悪がっていた、っていうのもあるかもしれない。
 そう、だからさ。うん。
 つまり、何が言いたいかって?


 別に、大したことじゃない。
 ただ、俺の両親は俺が罪を犯した際に、俺の首を絞める前にカルデアから逃げ出した程度には、俺の事を愛してくれていたんじゃないの。

 っていう、笑えるほどにどうしようもない、そしてどうでもいいひとつの結論が言いたいだけ。

 ――それが、俺の膨大な魔力ゆえに、手をかけたりしたら逆に殺されるんじゃないかって恐れをなした、
 っていう、その事実を認めたくないがゆえの結論だって、誰より――自分が嫌という程わかってるとしても、さ。


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