海だけが見ていた
まだ日が出てほんの少ししか経ってない早朝、毎日の習慣であるランニングをしていたら、堤防に見覚えのあるやつが座っていた。そいつは俺のことには気付きもせずにただぼーっと海を眺めているだけだった。
座っていたのは俺が小学生の頃ハルや真琴、渚と同じスイミングクラブに通っていた頃に同じく通っていた、海里だった。ハル達と幼馴染だというアイツはいつも楽しそうに泳いでいた。ハルや俺なんかよりもずっと楽しそうに。一度、アイツは産まれるべき場所を間違えたんじゃないかって思うぐらい水と触れることが大好きだった。
小学生の時いつも向日葵みたいだと思っていた笑顔が曇るとこなんて見たことない。なのに今の海里の横顔は凄く寂しそうに見えた。俺はなんとなく、アイツに近づく。歩く音が聞こえたのかアイツは少し肩をはねさせて振り返る。
「凛ちゃん…?」
「あぁ、久しぶりだな」
久しぶりに見た顔はあの頃よりもずっと大人びて見えた。それだけ会ってなかったから当然といえば当然だ。ランニングの途中だが、中断して俺はコイツの隣に座った。座った理由は特にはなかった。ただ、このままほっとくのもなんだかと思った。
「ランニングしてたの?」
「まぁな。お前は何してたんだよ」
答えはわかっていながら何気なく聞くと俺の方を向けてた顔をまた海へと向け、海を眺めてたとぽつりと言った。俺の考えた通りだった。しかし、元気の無い声で言うせいで余計どうかしたのか心配になる。いつも明るくて笑っている姿ばっか見ていたから気になるのであって、一応小学校時代に仲良かったから心配であって、それ以外の気持ちで気になるわけではない。
「なんかもう夏も終わっちゃうんだなぁって思ったら寂しくなってさ」
凛ちゃんはそういうのない?と首をかしげながら問いかけてくる。わからなくはない気持ちだが、俺はコイツほど思わない。でも夏は色んな思い出があるから、それを思い出させるから複雑な気持ちでたくさんだ。
「あんまないな」
「そっかあ…あと何回ここでこうやって海が見れるんだろうね」
どこか遠くを見ながら呟いた言葉に、なんともいえない気持ちにさせられた。俺は何を言えばわからなかったし、これからどうなるかなんてまったくわからない。ただ、この先もこうやって一緒に見ることができるような気がした。それをに伝えたら、凛ちゃんが言うと本当になりそうだねなんて微笑む。
肩に暖かい温度を感じ、何だと思えば俺にもたれかかって海里は眠っていた。多分朝方無理に起きてここでぼーっとしてたら眠くなったってとこか。仕方がねえからトレーニングってことで家までおぶっていこう。