羽の住処シンドバッド視点あの子供が目を覚ました途端、暴れだした翌日。俺はまたあの子の元へ来ている。今日は昨日みたいに暴れて物を投げることはなくベッドから起き上がって、こちらを窺うように見ている。その姿は警戒している猫みたいで可愛かった。
「やあ!気分はどうだ?大丈夫かい?」
尋ねると小さく頷くだけで声を発しなかった。
無いとは思うが、昨日泣き叫んでいたので、もしかしたら声が出なくなったのかと思った。一応、声が出るかどうか確認するのも含め、名前を尋ねることにした。
「俺はシンドバッドだ。君の名前は言えるか?」
「……カナン」
か細く、少しかすれ声だが、子供特有の高くて愛らしい音が確かに耳へ届いた。カナンと言った子供は女の子にしては短い髪。しかし艶が有り、深海を思わせる色をしていた。
「―――?」
「……ん?すまない、もう一度言ってくれないか?」
あまりに小さい声で聞き取れなかった言葉。
「……ここどこ?」
こちらの目を見て訊く子供の目は、髪とより少し深い色。まるで純度の高い宝石のように澄んでいる。
四歳になるぐらいで、あまり世間を知らなそうな女の子が見ず知らずの場所にいて、不安に思わないわけがない。その理由として、目は不安に揺れていて、怯えているように見えた。
「ここはシンドリア王国さ」
「シ…シン、ドリア……?」
多少たどたどしいがはっきりとした声で呟いた。こてん、と首を傾げる姿はなんとも言えない可愛さがあった。そして色々と聞いた結果、どうやら記憶がないみたいだった。自分の名前と歳しかわからない状態は不安で仕方がないのだろう。
そんな状態の子供を放っておくことは出来ない。そしたら、ここに住まわせよう!それがいい!……しかし、ジャーファルをなんて言って説得するか……
どうしたものか、悩んでいると服をクイッと引っ張られた。
「……カナン、どうなるの…?」
不安で不安でどうしようもない泣きそうな顔で尋ねてくる少女。まるでここで自分は死んでしまうのではないのかと思っているような顔。彼女にそんな顔をさせたくなくて、少女と目線を合わせながら笑顔で言う。
「カナンちゃんは今日からここに住むのさ」
小さく、ここに…、と声を出した少女はしばらくして、俺の目を見つめて口を開き、頭を下げた。
「……よろしくお願いします」
さて、政務官である彼になんと言うべきか本気で考えないとな…。
title:カカリア