ヒーローズの世界へ来てしまったんだが
!中途半端に終わります。
召喚士なんて
「あなたが召喚士ね!」
「……はい?」
帰宅途中、新しくリリースされたゲームを開いた後の記憶がない私にはあまりに突然の出来事に頭がついていかなかった。
視界に映るのは、現代日本ではあまりお目にかかれない赤髪の可愛らしい女性。
時にチュートリアルの説明を丁寧に教え、時にキャラクターの衣装を着替えさせるこの人は…。
アンナさんだ……。
呆然とする私を前にして、爛々と目を輝かせている。
とりあえず何が起きているのかを把握するために女性にここはどこなのか訪ねようとする間もなく、アンナさんは話を進めていく。
「ああ!よかった!この世界に来てくれてありがとう!大英雄様!」
「えと、ここは」
「いにしえの伝承どおり、貴方様こそが、滅亡に瀕したこの国を救う救世主として…」
誤解をとく前に赤髪の方は間髪入れずに話を進めていく。
おいおい、チュートリアルは自動に進んでく設定なのか?
「いや、だから」
「…って、あれ?…あなた、本当に伝説の英雄?なんか、そうは見えないんだけど…」
初対面の相手に突然のdisとは何事だ。
確かにぱっとしない外見かもしれないし、うちは制服が地味だから仕方が無い。
寧ろ逆にアンナさんが派手すぎるんですよぉ…。
って、そうじゃなくて、今の状況が何なのか聞かないと!
「ここはどこ…?」
「え?あなた、一体どこの異界から来たの?ここは…」
「いたぞ!殺せ!」
「……え、えええ」
異世界転生もののテンプレって、だいたい最初は美少女or美少年と出会ってからなんか迷子の子供とか猫を見つけたりする小さいイベントから起きたりするんじゃないですか!??
突然の戦に動揺しつつも、アンナさんに手を引かれながら敵と距離を置く。
「くっ…エンブラ兵がもうこんな所まで…!」
アンナさんは少し焦った表情で実況をし始める。普通は黙って手を引いて「逃げるぞ」ぐらいしか言わないが、まぁ、ゲームの世界だからそうか。
「あなたは下がってて!敵は私がなんとかするわ!」
アンナさん、そんな「!」がつくような大きな声で話したら敵に居場所教えてるようなもんですよ、とはつっこむ暇もなく、敵兵がこちらに向かってきた。
よくそんなに重たそうな武装で走れるな。
「さぁ!行くわよ!」
あれ、待てよ、アンナさんが出てきてるってことは、チュートリアルが始まる訳だ。
けど、今私がいる所では多分ゲームの中でアンナさんを動かすことが出来ないはず。
じゃぁアンナさんに丸投げ状態…ってことになるのか…?
そう焦った途端、頭に碁盤のようなマップが浮かんでくる。
これって…。
「(まずは移動しましょ)」
「アンナさん!?」
こいつ、脳内に直接話しかけて…!
と、テレパシーアンナさんにビビりつつもミニキャラアンナさんを動かす。かわいい。
トトトっといつものゲームシステムのように音が流れた後に、カチンと、アンナさんが指定した場所でとまる。
すると、デカアンナさん…じゃなくて、アンナさんは私の支持した方向に走って向かっていった。
これは、まさか…。
「(さぁ!攻撃よ!)」
「やたらとイキイキしてるなぁ(戦闘狂ゴリラかな?)」
一瞬、アンナさんがこちらを向いた気がするが気のせいだろう。私は慣れた手つきで、先ほどのマップのアンナさんを動かす。
やはり私と支持した方向と同じところに移動する。よく分からんがアンナさんとこのミニキャラは意思を共有しているようだ。
敵に攻撃を仕掛けるらしいが、果たして運命やいかに。
「せいっ!」
「ぎゃっふん!」
「ブファッ」
予想他にしなかった敵のボイスを聞いて思わず吹き出してしまった。
アレではシリアスな部分が台無しである。
エンブラの兵士とやらはそういうのがわんさかいると考えると、これからの私の腹筋が心配になった。もしかしたらバッキバキの腹筋になって、アンナさん!危ない!って庇った時に「よかった…私の腹筋が…守ってくれた…」みたいな恋人のお守り代わりにならないだろうか。
「ないわね」
「あ、すいません!」
「なんであなたが謝ってるのよ?」
「へ?」
頭を上げると、アンナさんがレベルアップしたようでステータスが表示されていた。
そこには、攻撃とSPという能力だけが加わったアンナさんの初のランクアップ表。
たしかにこれはない。
「新兵ほどの伸び代はないわよ」
「は、はぁ」
というか攻撃だけが上がってるところがますますゴリラ感が増す。やっぱりアンナさんって…。
「ふぅ…なんとか片付いたわね」
「そうですねぇ」
「私はアンナ。アスク王国の特務機関の長よ」
と言ったような感じで、大体のチュートリアルっぽい説明が終わる。カットしてごめんなさいアンナさん。ざっくり言うと、英雄と祖国を守る組織ですね。分かります。
「伝承に曰く、『真の鍵十ブレイザブリク十を捧げよ…』」
「十ブレイザブリク十…」
まるで中学生がキャン〇スのノートに鉛筆で十ブレイザブリク十という武器をもった朧月夜氷麗(おぼろづきよひり)という業を背負った実は温厚だがそれを周囲に悟られぬようにする設定の少年が持っていそうなチートの剣(つるぎ)の名前のようだ。
ちなみに力が暴走すると目が赤くなって…
「という訳で、あなたがこの神器十ブレイザブリク十を使えるらしいんだけど…」
それまでの話をまっったくきいてなかった私が朧月夜の設定を考えていると、アンナさんにその武器を渡された。
そこにあるのは剣(つるぎ)ではなくなんとも重そうなロイヤル銃だった。
うわ全然違う!鉄からやり直してきて!
と、言いたいところだが、多分まだチュートリアルは終わってないと思うのでまた敵が来てもおかしくない。とりあえず受け取っておく。
「でもこれ、変な形してるのよね…」
「銃、知らないんですか…?」
「え?」
「みつけたぞ!こっちだ、囲め!」
ほーらやっぱり。ここでこの十ブレイザブリク十の出番ってわけか。
よーし、ガンガン打ちまくってアンナさんの護衛だ!
……ってあれ、銃弾の形がおかしい。
明らかに七色に輝く玉ありけり。
って、なんじゃこりゃぁああ!!!
「くっ…また、本当にしつこい連中ね…!」
これって絶体絶命ってやつ!?
チュートリアルは普通に勝たせて経験値蓄えさせるのが普通でしょ!
ガチャガチャと音をたてながらこちらに向かってくる兵士達。思った以上にうるせぇ。
「まずい、敵の数が多いわ。私ひとりじゃ…」
今からでも遅くない、私を見捨てればアンナさんは助かるかもしれない!
でも、怖くてそんなこと言えなかった。
どうすれば……やっぱり、この武器で…!
人を殺生するのはこれで初めてかもしれない。人間、綺麗なままではいられないってのね。
「あなた1人だけでも今のうちに逃げ…」
みんなのアイドル、アンナさんを見捨てられない。
それに、やらなければやられる。
そう気持ちを鬼にして、
私はトリガーを引いた。
「私はヴィオール。とある国から流れてきた美しい貴族だよ」
「へ…?」
呆然とする私を前に、アンナさんは何かを言って、知らない間に戦闘が始まってしまったが、何ら問題ない。
なるほど、そう言えばこれはソシャゲだったからアレが強制召喚(ガチャ)イベントだったのか。
それにしてもこのヴィオールさん、つぶあん派はアゴで殺してしまう人にちょっと似ている。
「みつる…ヴィオールさん、頑張って!」
「ああ、任せてくれ」
あっぶね。間違えるところだった。
そうこうしているうちに、敵のターンが来てしまった。アンナさんの衣装が飛び散る!
あわわ、痛そう。後で治療してあげないと。
「おまけしてあげる!」
「ヒデブ!」
スパパーンとかあたたたーっっ!!という効果音がつきそうな勢いでおかしな悲鳴をあげる敵を倒したアンナさん。
さすがゴリ…アンナさん。
「あなたのおかげで命拾いしたわ」
「いいえ、わたしこそ」
「すごい力を隠してたのね、特務機関の人間でも英雄の召喚なんて誰もできないのに」
「え、あ、そうですか、はい」
「…やはり私の目には………英雄使いがうんたらかんたら……」
アンナさんの会話が耳に入ってこない。
……これってもしや、今巷で話題のチートもの異世界転生ってやつですか!
わー!これで俺TUEEEE展開も炸裂できるわけじゃないですか!訳もなく周りの美少年から惚れられるようになるんじゃないんですか!
やったぁ!!召喚士最高だ!
軽く自己紹介を終わらせると、改まってアンナさんが、手を差し出した。
「という訳で、宜しくね。名前」
「はい!よろしくです、アンナさん!」
この時の浮かれていた自分を殴りたくなるのはまた後の話。
****
あの後、英雄召喚のせいか疲労した体を引きずりながら隊員のアルフォンス、という人のところへ行くとアンナさんは告げた。
ゲームをしている時の時間の流れは10分も経たないだろうが、こちとらゲームと違って移動時間やモーションカットができないので1時間ほどは経過していた。
くそぅ、お母さんがゲームは1日1時間って言ってたんだぞ!
しかし、そんな疲れもその人物をみて吹き飛ぶこととなるのだ。
「アンナ隊長!無事でよかった」
わーお、なんてイケボの美少年。
子犬っぽい雰囲気もポイントが高いです。
1通りアンナさんに紹介してもらったところで、アルフォンスがこちらに歩み寄る。
意外と背が高い。しかし、視線もきちんと合わせられるようにひざまづく。
「はじめまして、君が異界の大英雄か。お目にかかれて光栄だよ」
「はじめまして。どうぞよろしく」
そんな、大英雄だなんて恥ずかしいですー!
今のあの踊り子みたいだったな。
でも実際こんなに褒められるというか、崇められるようなことはされたことないからこそばゆいことは確かだ。
「僕はアルフォンス。特務機関の一員…そして、この国の王子だ」
「おーぅじ…さま…」
なんだこの夢小説展開!!!
ひたすらチートして偶然にも王子様と出会って早々にチヤホヤされて上手いこと転がりすぎでしょ。逆に怖くなってきたわ。
それに最近の異世界転生ものってやたらとなにも能力のない主人公が転生してからひたすらそいつが考え抜いて困難を切り抜けるやつでしょ?
ちょっとこれは甘すぎやしませんかねぇ。
と、異世界転生ものについて熱く考えているうちにまたもや戦闘になりそうな状態に。どうやら今度は紋章の世界が支配されたらしい。
どんだけ仕事早いのエンブラ兵さん。
あと、リリース前から話題になってた変態仮面さんもどうやらいるそうだ。
話を聞くと、紋章の世界に行く前に変な断末魔をあげるモブキャラと交戦することに。
私は隠れた場所から指示を出すことになった。棒戦闘系軍師とは違って、雷を出すことは出来ないしね。
アルフォンスの三すくみ説明を聞きながら、私はマップを思い浮かべる。
よし、準備完了!
「出撃よ!」
アンナさんの掛け声と共に召喚銃をぎゅっと握りしめる。
チュートリアルごときに負けるわけにゃいかん。気を引き締めていくぞ!
「…ふぅ、なんとかなったみたいだね。あの仮面の男の正体は分からなかったけど」
「そうね。その男、何か知っているかもしれないわ…。」
「名前…あなた、大丈夫なの?」
たぶん、アンナさんの目の前にいるのは顔面蒼白の息切れをした私だと思う。
あれ、おっかしいなぁ…。運動部ではないけど体力は人並みにあったと思うのに。
アンナさんたちに指示すればするほどなにかが奪われていくような、そんな錯覚に陥る。
何が言いたいかって、とにかく疲れた。
「…ええ、なんとか…はぁ…はぁ…」
まだチュートリアルは終わらないのだろうか。
指示を下すアンナさんの顔を伺う。
「名前、疲れているかもしれないけど、この機関は一刻を争う仕事をしているの。あなたには悪いけど、あと少し頑張って!」
「…は…ぁい…」
くそぅ、誰だよ召喚士最高とか言ったヤツ。とんだブラック企業じゃねぇか!!!
少々長いチュートリアルにイラつきながらも、アンナさんのあとをついて行く。
途中で何度か転びそうになる私を案じたアルフォンスは、私の前でかがみ込んで背中を向けた。
「…アル…フォンスさん?」
「名前が嫌じゃなければ、頼ってくれ」
「え」
今度は違う意味で心臓がバクバクする。
いやいや、一国の王子におぶられるなんてそんなことはできないし、される資格もない。
いくらこの世界では大英雄だかなんだと呼ばれていても、流石にそれは…。
そう私が戸惑っていると、痺れを切らしたアルフォンスは私の足と背中に手を回す。
おいおい、これはまさか…。
_人人 人人人_
> かたぐるま <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
「(アイエエエカタグルマ!?ナンデカタグルマ!?)……」
「上の方は空気が綺麗だからね。エクラが落ち着くかと思って」
ほんの少しだけお姫様抱っこを期待していた私をぶん殴ってくれ。
いやそれ以前に肩車ってそんな持ち上げ方しないでしょ。なんで出来たんだ。
それに木の枝にぶつかりそうになって危ないんだよ!!ひとりチューチュー〇レインしてるんだけど!
「あ、アルフォンス、悪いんだけどやっぱりおんぶにしてくれない?」
「え、ああ、分かったよ」
このままでは落ち着くどころか戦地に着くまでに疲れ果ててしまう。
恥を捨て、アルフォンスにおんぶをしてもらった。うう、すいません。
森を出て、しばらく歩くと偵察に行っているシャロンというアルフォンスの妹さんらしき、ブロンドの長い髪の女の子が佇む場へと抜けた。
「アンナ隊長、お兄様!来るのが遅いですよー!」
女の私でも見惚れるほどの可愛さ。しかし、その手には厳つい武器が握られていた。
うわぁ、なんというか、複雑な気持ちになる。
アルフォンスは男だし、アンナさんは毎回ゲームに出てくるから武器を持ってても違和感は無い。
けど実際ぽん、と現実に現れると今更ながらに緊張感もつなぁ。
その光景をぼぅと眺めていたら美少女は私の武器を見て、顔色を変えてこちらに話しかけてきた。
「もしやあなたが、異界の大英雄様!?」
「!」
「すごーい!!百年前からファンでした!」
一万年と二千年前から愛してる〜…。みたいだなって思ったけど古いな。
ブンブンと効果音がつきそうなほど勢いよく握手してきた手をシェイクする美少女に翻弄されながらもお互いの自己紹介を済ませると、戦況についてアルフォンスが訊ねた。
どうやら向こうも英雄が使えるらしく、それを従えたせいで少々まずい状況らしい。
アルフォンスがご丁寧に弓使いの英雄を連れてくるといいという情報を織り交ぜた話をしながら再びその場現場まで歩く。
明日絶対筋肉痛だこれ。
ん?待てよ。筋肉痛…?今更だけどこれって夢じゃないのか…?
やたら汗かくし、披露もする。水もいつもより美味しいと思ったし…。
「もしかしてこれって…」
「エクラ、どうしたんだい?」
続かない!!!!
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