隣の席の男子がギャングスターになってた3


ギャングスターのラガッツァ(仮)になったと言えど、何か熱烈にイチャイチャするだとか、授業中内緒で手紙を交換したりとかはとりわけしてなかった。

それどころかジョルノくんはいつも通り隣の席に座って挨拶をし、放課後まで会話をすることは特になく、私は私で下校は取り巻きの女の子に嫉妬で虐められるのが嫌だから隣には歩かないで3歩後ろを歩いて一緒(?)に帰っている。
よく分からないけど、恋人(仮)になる前よりも溝か出来てしまっているような…。

きっと今の状況を友人に話したら、それは付き合っているとは言えないとハッキリ言われてしまいそうだ。言わないけど。
カッコイイジョルノくんの後ろ姿が堪能できるのはまぁいいことなんだけど、やはりどこか心に隙間風が吹いているような気分だ。
分かってはいたけれど、彼はあくまでも私を監視下に置くのが本当の目的なのだろう。
それをオブラートに包んで恋人のフリをしろと言ったのだ。

そんな彼の優しさが少しだけずきりと心を痛みつける。
なんだか彼の近くにいることが申し訳なくなってきてしまいそうだ。

「お!ジョルノ!」
「ナランチャ、どうしたんですか?」

彼の顔を見るなり無邪気な笑顔で駆け寄ってきた黒髪の男の子。
独特なくせ毛ではあるが、髪質は健康的で太さも申し分ない。アジア寄りの黒髪で、重度の黒髪好きの私は先程の精神ダメージを忘れて思わずうっとりと見とれてしまう。

「ちょっと休憩中で暇してたんだ…って、そこの女の子は?彼女か?」
「そうですね、一応…」
「一応…なんだ、セフレか?」
「なっ…!?」

かなり童顔だからか、彼の口からセフレなんて単語が出てくるとは思わず目を見開いてしまった。

「違いますよ、それに抱くならもっとスタイルのいい子にします」
「……(スタイル良くなくて悪かったな)」

文句のひとつでもたれてやりたかったが一応命の主導権は彼が握っているのでぐっと堪える。偉いぞ私。

「アンタも充分スタイルいいと思うけどな」

紫色のくりくりとした綺麗な目で私を見つめる男の子に、ズキューンと矢をいられたかのように胸が締め付けられて、顔が赤くなる。
自身の容姿に触れられることはあまりされてこなかったし、ましてや褒められるなんてこともあまり無かったので嫌でも照れてしまうものだ。

「でも、スタイルよりも顔が好みだからセフレにすんのは勿体ねーよな」

どタイプの異性にそんな嬉しいことを言われてメロメロにならない女の子なんていない。
気がつけば隠せない程赤くなった顔を隠すことで精一杯だった。

「あの、私は…」
「ナランチャ、彼女を送った後ゆっくり話をしましょうか」

相当セフレをつくっている疑惑をかけられたことに腹を立てているのか、男の子…ナランチャくんに向けられるジョルノの目はあの時のように笑っていなかった。
ああ…私のせいでごめんね…。

「ゲッ…ジョルノ、冗談だよ、冗談…。あ!そろそろ休憩終わるからまたな!」

彼の機嫌を損ねたことをいち早く感知すると、足早にここから去っていくナランチャくん。
可愛かったなぁ〜…綺麗な黒髪だったし、あの愛想のあって世間渡り上手な感じ好きだわ…また会いたい。

「なにボサっとしてるの?行くよ」
「わ、ごめんなさい」

ナランチャくんの後ろ姿を見続けていると痺れを切らしたジョルノくんが私にピシャリと催促の言葉をなげつけた。

「そんなにナランチャが気に入った?」
「えっ!そんな、やめてよジョルノくん」

こちらを全く見向きもしないジョルノくんは、どうしてだかまだ不機嫌そうな雰囲気がした。
仮とはいえ恋人なんだし、ほかの男にうつつを抜かすのは良くなかったなぁと反省する。
このままの空気で帰りたくはなかったので、私はジョルノ君の機嫌をさりげなくとろうと口を開いた。

「あのね、私は髪が綺麗な人がとっても大好きで、特に黒い髪の人は見とれちゃうくらい好きなの」
「……」
「ジョルノくん、昔黒髪だったでしょ?あの時もすっごいカッコイイって思ってて……今ももちろんカッコイイと思うけど、なんで染めちゃったの?」

実を言うと、さっき話した通り私はジョルノくんが黒髪だった頃彼に本気で恋をしていた。
クールだけど優しくて、爽やかで誰にでも好かれる感じなのに、どこかミステリアスで…。
性格もタイプだったけれど、やはりあの黒髪時代のルックスに勝るものは無い。
彼が金髪にした時は本当にショックを受けてしまい、目が合うだけでも目眩のしそうな恋心はほとぼりが冷めたように落ち着いたのである。

「染めたんじゃあなくて、突然金髪になったんだよ」
「え!?」
「ふふ、どう?信じる?」

余裕そうな笑みを浮かべ、瞳の奥底に冷静さを秘めた目で笑うジョルノくん。
あの時と同じように斜め上を行く回答をされ、目を白黒させてしまう。
生命に稀に起こりうる突然変異が、彼の髪型にも起きたというのであろうか。
もしかして、機嫌の悪さ故におちょくられているのかもしれない。
それでも、私は

「うん。ジョルノくんのこと、信じる」
「…!」
「だって恋人だもん」

仮だけど、と心の中で付け足しておく。
切ないけれど、それでもいい。彼が本当に結ばれるべき相手はもっとスタイルが良くて、美人な完璧に近い女性なのだから。

「ギャングの言うことなんて易々と信じるもんじゃあないよ」
「ちょっと、ジョルノくん…!?」

壁際に無理矢理背をつけられ、ジョルノくんの腕が壁につき、私の逃げ場を奪った。
物凄い至近距離で話しかけられているため、彼の香水の匂いまで微かに香ってくる。
あとほんの少し動いてしまえば、キスしてしまいそうで緊張のあまり目を瞑ってしまった。

「さっきの髪のことは本当だよ」

ジョルノくんの声が遠くなって、パッと目を開くといつも通りの距離に戻っていた。
息も詰まる程の距離感から解放された私は、ジョルノくんの香りを取り込んでしまって、少しだけ切なくなった。

「ひょっとして、期待した?」

振り返った彼の表情は、年相応のいたずらっ子のような笑顔で、私は心底ホッとした。

「ちょっと、ビックリしたかな」
「ふうん」

飼い主に構ってもらえなくて退屈そうな猫みたいな顔をすると、ジョルノくんはいつもの3歩離れた距離から2歩程度歩み寄り、

「次は君がもっと驚くようなことでもしようかな」

なんて言うものだから、私は彼の横を慌てて通り抜けて、彼より2歩程度先の距離で歩き出したのだった。

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