夢小説 | ナノ
01


人魚姫

誰もが一度は読んだことがあるであろう御伽話。
ある人魚の少女が難破した船から王子を救い出し、その王子に恋をする。
しかし、王子は人魚が救い出してくれたことに気付かずに他の女と結ばれてしまう。
そして人魚姫は自らの命を顧みず、思いを伝えることなく泡となって消える。

私はこの話が大嫌いだ。

だってわたしは……



****

アニメやドラマでもよくある「幼馴染は報われない」法則をご存知だろうか。
特にハーレムものアニメなどを見るとそれが顕著だと思う。
ある時は主人公を毎日健気に起こしに来ては寝坊させないように学校に登校させ、ある時は弁当をバランスよく母親顔負けに作って届けたりと、十年以上も主人公の世話をしていたというのに、唐突に沸いてでたよく分からない転校生にあっという間に絆されては奪われてしまう。
なんというか、ドンマイ過ぎる存在だ。

何故私がここまで幼馴染に対して同情をしているのかと言われれば、現に私がそういう状況だからである。

事の顛末は、先月転校してきた美少女によるもので、私の幼馴染であるアイクがモテることは知っていたが高嶺の花(?)すぎて誰も手を出さなかった彼に猛アピールし始めたのだ。
だが残念だったな、私の幼馴染はまず超がつくほど鈍感だから好きという気持ちにまず気づいてくれないぞ。
一体どうやって対策してくるのだろうと高みの見物を決めていたが、彼女は既にもうそれを見抜いていて鈍感でも少しは分かるようなドストレートなアタックを仕掛けていた。

ここまで露骨にすればまぁ流石に気がつくだろうなぁと、幼馴染を観察していたが、私がみる限りやはり気づいていなさそうだった。こいつアホかな。

まぁ、どうせ美少女でも興味がないから付き合わないと思うけど、転校生が不憫なので親切心で教えようとアイクにさりげなく好意を持たれていることを伝えようとした時に問題は起きた。

「あいつが俺を好きということは知っているぞ」
「へ」

思わず腑抜けた声をあげてしまったが、仕方ない。幼馴染の私ですら彼が気づいていることに気づかなかったのだから。
じゃぁ、今までの気づいてないアピールは一体なんですか。

「どうその気持ちに答えていいのか、分からないんだ…だから、見て見ぬふりをしてしまった」
「そっかぁ」

ああ、そっかそっか、そうだよね、あそこまで露骨だと流石に気づくよねぇ。
でもアイクさん、いま、自分の頬が真っ赤になっていることも、あなたは気づいてるんでしょうかね。

「答えが出るまで、じっくり考えてみたら?」
「…そうだよな、焦っても仕方ないか。お前にはお前の意見はいつも的確で助かる。ありがとうな、名前」

嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘うそ。
本当はこんな答えじゃなくて、彼女がほかの人に取られたらどんな気持ちになるか考えてみたら?と聞くのが彼にとっての一番の近道で、正解なのだ。
それなのに私は、こんな、

「行かないで……」


私の静かな悲鳴は、彼には届かずに消えていった。


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