少年Bによる少女Sへのモノローグ | ナノ




第一印象は、脆そうで、内気な、危なっかしい、オンナノコ。

初めて名前を聞いたのは幸村君と柳と真田から。
幸村君が面白い子に会ったって話してくれたのが最初だっけ。

3人で休日、都内に買い物に出掛けたところ、スポーツショップの前でガラの悪そうな奴らに絡まれていたのを3人が出くわして、真田が(まぁ、察してる通りの展開だけど)喝をいれたそうだ。
後で聞いたけど柳は青学の生徒だと知っていたらしく(なんでも青学の顧問の孫だとかでデータは取っていたらしい。なんつーか、こえーっつーか、流石だよな)幸村君は決勝が終わった後、青学に挨拶に行ったとき越前の近くで泣きじゃくっていた姿をなんとなく覚えていたらしい。(幸村君の記憶力もなかなかだよな)
で、その後も3人はその日紆余曲折あって交流を深めたらしいんだけど今回は俺の話だし、省略。

テニスをやってるなら是非とも立海のテニス部の練習風景を見に来ないかと幸村君が誘ってそれが出会いになる。

今でも覚えてる。こっちにも伝わってくる程の緊張で震えた身体と裏変えった声で

「はっはっはじめまして! 青学の一年、竜崎桜乃です! きょっ、今日はおまっお招き頂きありがとうございまふ!」

噛んだ。そう、おもいっきり噛んでた。
そこで耐えきれなくなって俺達は爆笑。
赤也は竜崎を知っていたらしくやっと名前知れたー!とか叫びだして変にテンションが高いし、仁王なんかは新しいオモチャを見つけたかのような顔でニヤリとしてたな。
竜崎はというと恥ずかしくて涙目でオロオロしてたっけ。

ほんと、幸村君が言ったとおり、はじめっから面白い奴だった。 


それから立海に顔に出すようになった竜崎は(と、いっても幸村君が誘った時くらい)やっぱり毎回緊張気味でたあたふたしてる事が多かったんだけど、柳が何回目かの訪問の時、レギュラーが代わり代わりで竜崎のテニスのコーチングをしてみるのはどうだろうかと提案したのだ。

驚いた。
いや、だって突然そんな事言われたらびびるっしょ!
まだ、会って間もない時だぜ?竜崎のこと、まだよく知らなかったし、悪い奴じゃないって事は解ってたけど、俺、いや、たぶん俺だけじゃなくてジャッカルや仁王や比呂士もなんでこんな突然現れた子、しかも他校だし、次期、立海の力になる訳でもない、俺らになんら関係の無いこのひ弱そうな女の子に付きっきりでコーチングしなきゃならないの?て疑問ありまくりだったと思うし、正直、ありえねー!て思ってた。と思う。

だけど、それを見透かしたかのように幸村君が言ったんだ。

「あの子と触れてみれば、皆もそのうち、わかるよ」って。

その時はどういう意味なのかさっぱりだったし、幸村君はたまに突拍子も無いことを言うなあって思ったっけな。(前に笑うこと常に忘れず取りくんでいこうって言って寒いギャグを言った時は凍ってなにも言えなかったし…。結局、赤也と真田の笑い声の件でうやむやになったけど)

その日、柳から提案されたそれにまだ納得行かない俺はロッカールームで愚痴を零してたんだけど、仁王があの癖のある含んだ笑みを零しながらさらりと言ったんだ。

「俺はのったぜよ。なんだか面白いことになりそうじゃき。」

「は!? なんだよそれ…」

間髪入れてそう答えればさらに笑みを深くする。

「考えてみんしゃい。あの不屈の三強を落とした女じゃ。一体どんな奴なのか興味があるのぉ」

「確かに。仁王くんの言う事に一理あります。なぜあの3人がここまで惹かれるのか。そして、なぜ竜崎さんを私達に紹介したのか、気になりますね。」

続けて比呂士も見えそうで見えない眼鏡に手をかけながら言う。

…確かにそうなのだ。
柳も真田も黙っていたけど、幸村君が竜崎の話をしたとき、確かに頷いているように見えたし。

仁王と比呂士の話を聞いたジャッカル小さく相槌を打って、赤也は赤也で俺もアイツにコーチングしたいっすよー!なんて言い出す始末。
お前は現部長なんだからそんなことしてる暇あるか!てひっぱたいといたけど。

この三強がここまでして買う、この気弱そうな女の子。
確かに、興味が湧かない訳がない。
 
もちろん竜崎も最初は「そ、そんな!私の為にお時間をとらせてしまうなんて!」って言って断ってたんだけど、なんとその後、幸村君と柳が直々に青学まで行き、必ずテニスを上達をさせるからと念を押しに行ったらしい。いやー。そこまでされて折れねー奴はいないでしょ。
竜崎も「あの時は本当にびっくりしました。私の為なんかに申し訳なさすぎます…」て振り返ってた。

最初はお互いが通える都内の大型スポーツ施設で休日にでも練習しようって事だったんだけど、竜崎からわざわざ練習を見て頂くのに都内まで来てもらうなんて悪いです!って言って立海までわざわさ足を運んでくれる事になった。
交通費とか帰りの事とか幸村君も柳も心配してたけど「おばあちゃんには心配しないで行ってこい!て背中をおしてもらえましたし、なにより立海の皆さんのテニスを直で見れるんです。コーチまでして頂くのにこれくらいなんてことないです!」て笑顔で話してた。
確かに立海はほぼ毎日練習があるし、3年生の俺らは実質的に引退したとはいえ、後輩指導やら引き継ぎやらでまだまだ休日も無いに等しい。
竜崎の所属している青学の女テニは、男子テニス部とは違い、部活にそこまで力を入れてる訳では無いらしく
放課後にそのまま立海に来れるというのもあって竜崎の意見を尊重することになった。


かくして、俺達は不安と好奇心を胸にテニスのコーチングで竜崎と交流を深めていくことになるんだけど…。


はっきり言って、最初は本当に大変だった。


竜崎はテニス初心者。しかも運動センスも無いに等しい。なんで運動部に?てまさにそんなタイプだった。 
ぶっちゃけ、あの3人が太鼓判を押すんだからああ見えて、実は凄い才能を持った奴なんじゃないか!?と勘ぐったりしたけど、的は見事に外れた。
一体、幸村君達は何を考えているんだか。
好奇心は疑心に変わっていった。


だけど、何回目かの練習でその考えを改める事になる。


いつも通り、何回かのラリーを竜崎と交わしている時、竜崎の打ち返してきた球に、違和感を感じた。もともと上手く打ち返してきた事は殆ど無かったけど、それとも違う何かを感じて竜崎に一旦止めるように指示を出す。

「手、どうした?」

「え?」

「ちょっと見せて見ろぃ」

「あっ」

そこで驚愕する。手のマメというマメが潰れてグリップも掌も赤く染まっていたのだ。

「おまえ! こんなになって打ってたのかよ!?」

「す、すみません!! あの、でも、痛みもそんなに感じないので…」

「馬鹿! 麻痺してんじゃねぇか!」

ラケットを取り上げて一旦コートから離れる。
こんなに血だらけになるまでラケットを降り続けていたなんて夢にも思わなかった。
確かに、教えた事を直ぐに出来ない竜崎は出来るまで何度も何度も繰り返し、繰り返し、こちらの気が遠くなるまで練習していた。
だが、ここまでなる程に?

更に詳しく話を聞けば練習から帰った後も寝る間も惜しんで練習していたらしい。俺達に付きっきりで教わっているのに出来ないなんて情けないといって。

竜崎は俺達の見えないところで何千回、何万回とラケットを振り続けていたんだ。

愕然とした。と、同時に恥ずかしくなった。
こんなに真剣に、熱心に、テニスと向き合ってる竜崎を今の今まで気づけなかった自分に。

その件を通して練習を重ねていく内に少しずつ気付いていく。そう、竜崎のテニスに対するひたむきな情熱に。

正直、柳が組んだ練習量にすぐバテると思っていた。見るからに体力は無さそうだし、途中で諦めるだろうと。
だけどどんなに時間がかかっても竜崎はメニューをやり遂げた。ひどく辛そうにしながらも、コートでは一度も膝を折らなかった。

何度目かの練習の時、竜崎に疑問をぶつけた。
テニスをどうして始めようと思ったのか。

「きっかけは、ある人のテニスを見てからです。凄く楽しそうで、かっこよくて、キラキラしていて。私もあんな風になれたらなあって思ったのが最初でした。
私、何かにこんなに夢中になった事って今まで無くて…要領も悪いし、凄く勉強が出来るわけでもないし、運動神経だって…。そんな自分に自信なんてなくて…どこかでなにもかも諦めていたんです…。
だけど、テニスと出会って…。楽しさを知って…。ラケットを持って、ボールを追いかけて、たくさん走って、自分の出来なささに辛くなったりするけど、でも次こそは!て思えて…。
寝るのがなんだか勿体なくて、朝が来るのが待ち遠しくて…。
こんな感覚、初めてなんです。
…皆さんに教えて頂いた事が少しずつですけど出来るようになっていくのが実感出来て凄く嬉しくて…!あ、あと!たまに綺麗にスマッシュを決められたらときとか…!ま、まだまだですけど…えへへ。
…それに、こんな私に親身になってテニスを教えて下さる皆さんに出逢えて…テニスをしてなきゃ、皆さんとも知り合うことってきっと無かったと思うんです。…だから私、テニス初めて本当によかったなって思うんです…!…だいすきです…大切なんです…テニスが…」

はにかみながら、だけどしっかりとした声で竜崎は微笑んだ。


俺も最初はテニスが楽しくって楽しくって仕方なくて、寝る時間も勿体無くてずっとずっと起きていられたらテニスが出来るのになあって思ってたっけ。

中学は立海に入学して死に物狂いでレギュラーの座を射止めた。誰にも言ったことないけど、死ぬほど特訓したし、ぶっ倒れるまで練習した。
まぁ、俺は天才だし?レギュラーにならねー筈はねぇって事は解ってたけどさ。

常勝を掟とし、最強王者という名に相応しい立海のテニス部。
俺のテニスの力を試せるのはこの学校しかないと思った。
ジャッカルっていう相棒も居てくれたしな。

テニスを楽しんでなかった訳じゃない。楽しいから今まで続けられているし楽しいから今も続いてる。

だけど、いつの間にかテニスが楽しい。より、勝つから楽しい。になっていたんじゃないか。
いや、勝つのはもちろん嬉しいし、楽しい。
だけど、もっと根本的な、本質的ななにかを忘れかけていたんじゃないか。

絶対勝利の言葉を背負い、勝つ事だけが正しいとしてきた。
それは、間違っているとは思わない。

だけど、竜崎を見ていたら思い出すんだ。ラケットを握りしめ、夢中でボールを追いかけて走り回った、何もかもが楽しくて、何もかもが輝いていたあの、頃を。

幸村くんが言っていた、あの言葉。「あの子に触れてみれば、みんなもそのうち、わかるよ」

あの言葉の真意は解らない。
だけど、今ならあの3人が竜崎を気に入ったのも俺達に紹介してくれたのも、わかる気がするんだ。

俺達がかつて持っていたもの。いや、今も持ってはいるけど隠れてしまっていたものを竜崎は教えてくれたんじゃないか。

…まー。これは俺の考えだから、他の奴が竜崎をどう感じてたかなんてかそれぞれだと思うけどさ。
でも、俺以外の奴らの竜崎との関係を見てるとたぶん、皆も竜崎から何かを感じたんだと思う。
だって誰一人、竜崎に手を抜いてコーチングしてた奴なんて居なかったから。

厳しいトレーニングに必死に付いて来る竜崎に、初めに感じていた「脆そうなオンナノコ」はどこかへ消え去っていた。

あぁ、でも、危なっかしいのほんとで、どこいってもすぐ迷子になるし、すぐ転ぶし、どんくさいっていうか目が離せねえっていうかなんていうか。他校といえど、ほっとけない後輩みないな。
あと、妹がいたらこんな感じなのかな。

そう、思っていたんだ。


ちなみに竜崎の気持ちも知ってる。越前を想っていること。

本人は「すっ!? すっ!?! いえっあのっあっ憧れてるっ憧れてるだけで…! その…あのっ」て言ってたけどあの反応はどうみても憧れているだけのものとは言えないだろ。

背中も押していた。可愛い後輩の想い人であるアイツとの恋を。
海外にいる越前に手紙を送ったら頑張ったな!って一緒に喜んだし、その返事が帰ってこないのを落ち込んでいたら励まし会と銘打って一緒にジャッカルん家のラーメン食いに行ったり。

ただ、楽しかった。一緒にテニスしたり、テニスに関係ない話もして笑いあうことが。

とにかく、竜崎が笑うと嬉しかった。スマッシュが決まった時に出るとびきりの笑顔や何気ない会話に一喜一憂して嬉しそうに微笑む姿や。笑ってる顔が見たくて無駄に赤也をからかったりしたりして。

竜崎が笑うと旨いもん食った後みたい満足感があって。幸福感がじわりじわりと身体を満たしていくのが解った。

少しずつ、少しずつ、けど確実に俺の胸に降り積もっていく。

なんてことない日常だったのに、竜崎がいると幸せで、特別な日に変わっていく。

気づけば竜崎の事ばかり考えるようになっていった。

どうしたら、もっと笑ってくれる?
どうしたら、もっと一緒にいられる?
テニスだけじゃなくて、もっと竜崎のこと、知りたい。




…で、竜崎への恋心に気付いて、現在にいたる訳だけど…。

俺、正直、恋愛とか、告白とか、そういうの苦手でさ…。
他人のはいいんだよ。別に。
でも、自分のことになるとさ…
なんか恥ずかしいじゃん!
今更って感じだし、それに竜崎の想いは知ってる訳だから結果は予想つくし…。

でも、たぶん、いや、たぶんじゃないか。
これが、恋。だろぃ?

どこか、わくわくしてる自分もいて、くすぐったくてじっとしていられなくて。

竜崎を見つけると一目散に駆け出したくなるし、他のヤローと話してるのとか見ると抱き締めに行って「コイツは俺の!」とか言ってやりたいし…あぁ、俺って独占欲強かったんだな。

ま、さ、これって俺だけじゃなくて、赤也も、ジャッカルも、仁王も、比呂士も、竜崎を特別に想ってるって事は明白で。
あの3人は言わずもがな、だし。

ていうか、俺が竜崎に告白したら、大戦争勃発するんじゃねーかっていうのもあって…うん、うちのレギュラーなら確実にあり得る。

なんか、越前うんぬんの前に倒さなきゃいけない奴らがゴロゴロと…。
あの3人を筆頭に…ていうか、特に幸村君に勝てるイメージが全くつかないんだけど!
くっ…!なんだよこれ、前途多難にも程があるだろ。

…はぁ。なんで気付いちゃったかな。この気持ちに。

でも、今は竜崎を入れてあの7人と一緒にいる時間もすげー楽しいのも事実で。

幸村君が竜崎を引っ張ってそれを真田は俯きながらもついて行き、全部見通してるような表情で2人の後に付く柳や、幸村ぶちょーずるいっす!て騒ぐ赤也はうるせーし、ジャッカルはそんな赤也を叱って、比呂士はサラッと五月蠅いですよ、ワカメ野郎とか毒吐くし、仁王はにやにやしながらそれを見てる。

なんつーか、竜崎とのこの不思議で曖昧な関係を俺達はなんだかんだ楽しんでいるんじゃないかって思うんだ。

だから、まだこの俺の気持ちはそっと胸にしまっておく。
来たるべき時がきたら、その時ちゃんと伝えるんだ。

竜崎が誰を想っていようが、最初は応援してようが、好きになっちまったんだ。
それを奪う権利は誰にもない。
この想いの行く着く先を決めれるのは俺だけだ。

うわ、なんか俺、すげー恥ずかしいこと言ってるよ。
恋って人を変える力があるっていうけど、ほんと。そうかもしれない。

今はまだ、竜崎と、この7人と、このままで。
もう少し、このままでいさせて。

竜崎に出逢わせてくれたあの3人と、癪だけど、竜崎をテニスに導いた越前にも心底感謝して、俺は今日もラケットを持ってアイツらと一緒にコートに立つ。

「丸井さーん!」

お、竜崎が俺を呼んでる。
あんな笑顔で呼ばれちゃ…もう少しこのままでっていったけど、我慢出来なくなるのも時間の問題かも…。

それじゃ行ってくるよ。

これが俺と竜崎の話。
俺の秘密の話。

あ、そうだ。最後に一言。


今日話したこと、ここだけの話にしてくれよな。












+++
ブン太誕の時にチラッと書いた日記で考え始めたら止まらなくなって仕上げてみました。
読み返しては変え、読み返しては変え、とやっていたら凄く時間がかかってしまいました…。この話は読み直すと全消しして書き直したくなる衝動にかられるので、アップするか悩んだんですが…。なので、突然消えていたらすみません(笑)

ブン太が最初の方で言っている三強と桜乃ちゃんの出会いはずーっと温め続けている話なのでいつか何かしらの形であげたいです。
本当はその話をサイトの一番最初の話にもってきてこのサイトの軸となるものを立てたかったんですが…そう、うまくいかないものです(笑)
あと、赤也が桜乃ちゃんを知っていたのは「雨降る放課後は君を、」の設定があったのでそれを。そちらを読まなくても大丈夫なのですが、この「少年B〜」だけを読まれると「?」と思われるかもしれないのでいちおう補足をば…。
それまで赤也は青学に行けなかったのか(笑)
もっと作品が増えてきたら、時間軸順とかにもしていきたいな。
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