雨降る放課後は君を、 | ナノ




今日は何曜日だったか。
なんだか曜日の感覚がない。最近は特にそれが酷い気がする。
年かなあ、なんてボヤいてみたけど、まだ14年しか生きて来ていないのに
もうボケが始まったなんて考えたくない。
こんなんじゃうちの副部長のお決まりの台詞が飛んできそうだと、居ない相手に身震いした。

時刻は15時32分をまわったところ。
帰りのホームルームはいつもながら、大幅にオーバーしていた。
理由は担任の長ったらしい話によるもの。最近はD組のひとつの名物と化している。
教室全体のじとじとした湿っぽさは雨だけによるものではないとクラス全体の空気が言っているようだった。
帰りのホームルームくらい、短めに出来ないのかと35人の目が嘆いている。

雨に濡れる窓をぼんやりと見つめた。

雨は嫌いだ。傘をさすのは面倒だし、濡れて髪はいつも以上にうねるし。なにより、コートを使えない。

この雨じゃ今日の部活は無しだろう。
こないだ買った新作のゲームをやろうか。それとも丸井先輩たちを誘ってゲーセンにでも行こうか。
大きく欠伸がでる。机にうっつぷせばひんやりとした感触が頬を伝った。

雨が嫌なのは、最近は、それだけじゃなく。
こんなふうに気だるい日は、決まって長い三つ編みの女の姿を思い出すから。
関東大会で見た青学の女。
たぶん、ひとつ年下だろう。
一年ルーキーとウワサされてるエチゼンリョーマを細く小さい身体で必死に応援していた。

なぜだかあの日から、あの女のことが頭から離れない。
腰まであるだろう、長い三つ編みと細い身体。気弱そうな、だけど大きな瞳。
知ってるのはそれだけ。
名前も、知らない。

どうしてこんなに気になるのか。あれから随分経つのに、頭の中はモヤモヤと霧がかかったようで。
今にも泣きだしそうな顔が何度もチラついて、胸をざわつかせた。

またひとつ大きくため息をつく。担任の退屈な話はまだ続いていた。

彼女も、この雨に濡れた窓を見つめて、担任の長話に深くため息をついているだろうか。
こんなふうに欠伸をして、机にうっつぷしたりして。

…...いや。真剣に、くそ真面目に、耳を傾けてそうだ。
こくこく、こくこく、頷いたりして。
彼女をよくも知らないのに、どうしてだか容易くその姿が想像出来て小さく笑みが零れる。

どんな声で話すんだろう。
どんな声で笑うんだろう。
笑った顔は、どんなに。

もし、次会えるなら。
会えたなら。

そう、聞きたい事は、たくさんある。

どうしてそんなに髪を伸ばしたのかとか。
テニスはやるのかとか。
エチゼンリョーマをスキなのかとか。

...…いや、それはいいや。

まず、名前。名前、教えてよ。

そうだ。いいこと、思い付いた。
青学へ行こう。

うじうじ悩んでたって仕方ない。そんなの俺らしくない。
出会えるかなんて分からないけど、今日行けばまた、会える気がする。

でも、まてよ?
会えたとして、突然声かけるのっておかしくね?
あっちは俺のこと、知らねえだろうし。

……まぁ、なんとかなるか。立海の期待のエース、切原赤也を知らねーわけがねえ!

…...たぶん。

とにかく会って、話はそれからだ。

うずうずと身体がせわしなく動けば、
さっきまで雨に濡れて真っ暗に見えた景色に、色が差した気がした。

自分でも笑ってしまうくらい、単純で明快な思考回路。
にやけが顔に出ていたらしく、エロい事でも考えてたのかって同級生の声。ほっとけ。

とりあえず、笑ってよ。
アンタの笑った顔みたら、そしたら、この頭のモヤモヤが晴れる気がするから。この胸のドキドキがなんなのか、分かる気がするから。

長い長いホームルームの終わりを告げる号令が教室中に響き渡り、
緩まった顔が騒ぎ出す廊下を駆け出すまで、あと――。








+++ この後、廊下を走っているところを副部長に見つかって説教+室内練が在ることを知らせれる+罰として体育館内100周のトリプルコンボをくらう切原くんなのであった。
(勿論、青学には行けませんでした。)


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