中編2 | ナノ





ここはダブルトレイン。
バトルを終えたクダリが長椅子に座る。
その傍に立つナマエ。ふとお互いの目が合う。


「ナマエ」

「クダリ」

一瞬の間。けれど永遠のようにも感じられた。
ざわりと胸がさわぐ。


「ねぇ、隣に座って欲しいな」

打ち破るのは彼の言葉。
子供のようなあどけない笑みを浮かべながら、
手のひらでぽんぽんと軽くシートを叩き、誘う。
彼女はそっとその場所に腰を落ち着かせた。


「やっぱりぼくのせいだったんだね」

「クダリ」

「昨日ね、ノボリとナマエが話してるの聞いちゃったんだ」

「そう」


悪い予感はどうやら当たっていたようだ。
ナマエはなんとも居たたまれない気持ちになって、
でもどうすることもできなくて、ただ暗い暗い車窓を見つめていた。


「実はね、記憶はもう、ずうっと前に戻っていたんだ」

クダリの思いがけない言葉に、ナマエは彼の方に向いた。
けれども彼は車窓を眺めたままだった。白い車掌の横顔。


「でもね、ぼく、確かめるのが怖くって。
 本当はそんなこと無いんじゃないかって。
 ノボリに直接聞けなかったんだ」


表情には笑みが浮かんだままだが、
彼の手が小刻みに震えているのが分かる。


「ねぇ、ナマエ。
 ナマエはぼくのこと、きらいになっちゃったかな?」

口元は下向きに弧を描いていても、その涙声からは不安や悲しみといったものが十分に感じ取れた。


「ならないよ」

彼女が柔らかに微笑んだ。


「ナマエ、大好きっ」

そう言ってクダリはナマエにがばっと抱きついた。



「ぼくね、ノボリ以外の人をこんなに好きになるなんて思ってもみなかった」

彼女はまるで小さな子供をあやすように、
彼の背中をやさしくなぜた。
なんとも奇妙な構図だった。
大の大人が彼よりもいくぶんか小柄な女性になだめられている。
けれども、それがこの世で一番正しい選択だったのだ。


「もういいんだよって、ノボリに言わなきゃ」

いつのまにか列車はギアステーションに到着していたようで、
ドアは開いていた。降車を促すベルが鳴っている。


彼は立ち上がり、「ね、ナマエも一緒に来て!」と彼女の手を引いた。





(2011.05.05)





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