ここはダブルトレイン。 バトルを終えたクダリが長椅子に座る。 その傍に立つナマエ。ふとお互いの目が合う。 「ナマエ」 「クダリ」 一瞬の間。けれど永遠のようにも感じられた。 ざわりと胸がさわぐ。 「ねぇ、隣に座って欲しいな」 打ち破るのは彼の言葉。 子供のようなあどけない笑みを浮かべながら、 手のひらでぽんぽんと軽くシートを叩き、誘う。 彼女はそっとその場所に腰を落ち着かせた。 「やっぱりぼくのせいだったんだね」 「クダリ」 「昨日ね、ノボリとナマエが話してるの聞いちゃったんだ」 「そう」 悪い予感はどうやら当たっていたようだ。 ナマエはなんとも居たたまれない気持ちになって、 でもどうすることもできなくて、ただ暗い暗い車窓を見つめていた。 「実はね、記憶はもう、ずうっと前に戻っていたんだ」 クダリの思いがけない言葉に、ナマエは彼の方に向いた。 けれども彼は車窓を眺めたままだった。白い車掌の横顔。 「でもね、ぼく、確かめるのが怖くって。 本当はそんなこと無いんじゃないかって。 ノボリに直接聞けなかったんだ」 表情には笑みが浮かんだままだが、 彼の手が小刻みに震えているのが分かる。 「ねぇ、ナマエ。 ナマエはぼくのこと、きらいになっちゃったかな?」 口元は下向きに弧を描いていても、その涙声からは不安や悲しみといったものが十分に感じ取れた。 「ならないよ」 彼女が柔らかに微笑んだ。 「ナマエ、大好きっ」 そう言ってクダリはナマエにがばっと抱きついた。 「ぼくね、ノボリ以外の人をこんなに好きになるなんて思ってもみなかった」 彼女はまるで小さな子供をあやすように、 彼の背中をやさしくなぜた。 なんとも奇妙な構図だった。 大の大人が彼よりもいくぶんか小柄な女性になだめられている。 けれども、それがこの世で一番正しい選択だったのだ。 「もういいんだよって、ノボリに言わなきゃ」 いつのまにか列車はギアステーションに到着していたようで、 ドアは開いていた。降車を促すベルが鳴っている。 彼は立ち上がり、「ね、ナマエも一緒に来て!」と彼女の手を引いた。 (2011.05.05) ← ×
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