「ナマエー、何か知ってる星座とかある?」


彼が、とうに暗くなった空を見上げながら言った。
毛布に包まり、ココアを片手に天体観測。


「あの、ひときわ明るく輝いている星が、北極星でしょ。
あれはひしゃくの形をしてるから、北斗七星よね」

「うん。でもねーナマエ。
正確には北斗七星は星座じゃーないんですよー」

「え、そうなの?」


「あれはリングマ座の一部で、尻尾の部分に当たってるんだー」

「ワーオ!そうなんだ。
 ……って、今ネジキの口癖うつってたよ」

「ワーオ!それは驚き」


二人は顔を見合わせて笑いあった。
銀砂を撒いたような星空。





「ネジキ、ココア冷めちゃうよ」

「あー、ごめん。ナマエがせっかくいれてくれてたのになー、
話に夢中になってて飲むのを忘れてましたー」


カップの中のココアには、きらめく星空が微かに溶け込んでいる。

「本当に、ネジキは物知りね」


ナマエはカップに口をつけ、一口すすった。
先ほどよりは冷めてしまったけれど、温かさの残るその液体は、冷えた体には心地よい。
そういえば、まだ鍋に残っていたはずだから、
これを飲み終わったらまたおかわりしようかな、なんて。



「あー、流れ星」

「えっ、どこどこっ」

「消えちゃいましたねー」

「……もうっ」


「何か、お願い事でもあったんですかー?」

「え、ああ、うん」

「どーしたんですかー?
 さっきからぼーっとして」

「あはは、そう見える?
 星が綺麗だなぁって、見とれてたのよ」



本当、どうしちゃったのかな、私。
なんだか、変だ。
頭がぼぅっとして、息がつまりそう。


「ねー、ナマエ。
 こーゆーとき女性って、『星よりもきみの方が綺麗だよ』
 とか言われたいものなんですかー」

ナマエはあやうく口に含んでいたココアを
そっくりそのまま噴き出してしまうところだった。


「ネ、ネジキ。いきなり何言い出すのよっ!」

「単純なきょーみです」

「うーん。そりゃ、言われたいものなんじゃないかなぁ。
 別に、その台詞じゃなくても、女性は褒められることって、好きだからさ」

「そーですかー」




“星よりもきみの方が綺麗だよ”その言葉が頭の中でぐるぐる回る。
その言葉自身は、私に宛てられたものでは無いというのに、だ。
まったくこの人は、どういう気持ちでこういう質問をしてくるのだろう。


ああ、心臓が嫌なくらいドキドキする。
隣にいる彼に、聞こえてしまうのではないかと心配になるくらいに。



すっかり冷めてしまったココアを、私は一気に飲み干した。





(2009.03.09)





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