<何もさせないまま勝利を手にしたのはアクロマだーーッ!> アクロマ博士は熱い声援に応じ、観客に向かって上機嫌で手を振っている。 ……ったくこっちの気もしらないで。 まぁPWTに出場した時点で目立つなという方が無理な話なのだけれど。 本当に大丈夫なのか? と、観客席よりもすこし高い位置に設営されたバトルフィールドから こちらと目が合うと、博士は金の目を細めてにっこりと笑った。 不覚にもちょっとときめく。 アクロマ博士は強い。それもとんでもなく強い。 学者ではなく、トレーナーとしての人生を歩んでいたとしても 確実に成功していただろう。 それに比べて私にはバトルはあまり得意ではない。 根性が無いというか、少しでも負けると思ってしまった瞬間に、もうだめなのだ。 要するに精神的な問題だ。 ……相棒のランクルスには申し訳ないけれど。 私自身がポケモンの力を引き出せれば、 アクロマ博士の研究はあっという間に進むだろうになぁ。なんて。 無いものをねだったって仕方がないのに。 アクロマ博士はなんでもできる。 学問、ポケモンバトルはもちろん、スポーツ、それに楽器も嗜んでいるらしい。 おまけにあの容姿だ。天はときに何物でも与えてしまうらしい。 バトルフィールドの奥に設置された巨大スクリーンには対戦結果が表示されていた。 勝者であるトレーナーの名前が読み上げられる度に、観客のボルテージが上がっていく。 次は決勝だ。ああ、あのトレーナー。 956番……キョウヘイ君、だったか。 最近アクロマ博士が最も注目しているトレーナーだ。 正直な話、どちらを応援すればいいのか迷うところではある。 ポケモンを大切にすること、その有効性を証明するには、 キョウヘイ君に勝ってもらわなければならないのだが。 <この戦いに勝てばポケモンワールドトーナメント初めての優勝ッ! キョウヘイの入場だッ!> 歓声に包まれキョウヘイ君が入場してきた。 たすきがけにした白いスポーツバックの紐を胸のあたりで握りしめ、 どこか緊張した面持ちだが足取りはしっかりしている。 まだ幼さは残るとはいえ流石はポケモントレーナーだ。 <アクロマッ、登場! 願いはポケモンの力を引き出すこと!> 力強いアナウンス共にアクロマ博士が反対側から入場してきた。 その瞬間わっと歓声が沸き立つ。 彼は裾の長い白衣を翻し、目もくらむようなまぶしい照明の中、 おだやかな笑みをたたえながら颯爽とバトルフィールドへ足を進める。 なんというか、様になるなぁ。 ほんと、何で、こう、ぱっとしない研究者なんかやってるんだろ。 博士より先に所定の位置についたキョウヘイ君は、 やる気満々といった様子で腕を大きく回したり、屈伸運動をしている。 栗色のぼさぼさ頭に、サンバイザー。 自身に満ち溢れた一点の曇りも無いまっすぐな瞳。 全体的な服装としてはスポーツ少年、といったところか。 運動神経良さそうだなぁ。 博士はというとタブレットを操作して試合に備えているようだ。 キョウヘイ君がウォーミングアップを終え、 アクロマ博士の方に向き直ると、博士は言った。 「わたくしが学究の徒として求める理想、真実、それはポケモンが持つ本来の力、 それをどうすれば引き出せるのか…。 できうるならばこれまでどおり、トレーナーとポケモンとの信頼関係であって欲しい! あなたはそれが正しいと教えてくれるのか楽しみです!」 博士がポケットからモンスターボールを取り出し、後ろ手に腰のあたりで構えるのが見えた。 キョウヘイ君もバックからボール取り出して臨戦態勢だ。 <それでは! バトルスタートッ!!> 派手に吹き上がる蒸気と共に試合開始のブザーが鳴った! (2012/08/29) ← ×
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